くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「破れ太鼓」「遠い雲」「惜春鳥」

破れ太鼓

「破れ太鼓」
しゃれたモダンコメディの傑作。阪妻の並外れたカリスマ性に驚かせる作品でした。全く木下恵介のジャンルの幅の広さには感服します。一見、日本の映画なのにどこかエキゾチックなおもしろさがあるし、空間を通り越した演出の見事さ、さりげなく俳優に演出している演技指導の細やかさにも感嘆してしまいます。

物語は一代で建設会社を築いた一人の頑固おやじ軍平の家族の物語。6人いる子供たちはそれぞれ自分の人生を考え始めている。長女秋子は花田と交際しているが気乗りせず、画家の野中に引かれていく、次女春子は演劇の道、長男太郎は独立してオルゴール会社を作ろうとしている。また次男平二はピアノを弾いて親父を風刺した「敗れ太鼓」という歌を聞かせたりする。それぞれ個性的な人生を目指すキャラクターたちを巧みに操りながらどこか暖かみのあるほのぼのした家庭を笑いとウィットに富んだセンスのおもしろさでどんどん引っ張っていく演出のおもしろさ。

そしてそんな多彩なキャラクターをまとめる阪妻の迫力。豪快なコメディアンとしての存在感が実に見事。

物語の中心は太郎がオルゴール会社を作るために家を飛び出すことから始まる。一方で父の建設会社は傾きかけている。そこへ長女秋子の結婚問題が絡む。一代で築いたという自負に頑固一徹で剛健をふるう父に妻を始め皆が翻弄され反抗するものの、どこか憎んでいない姿が本当に暖かいドラマになっている。

ラストは、父の会社がつぶれたものの太郎の会社は順調でそこへ散り散りになった家族がもう一度集まって楽しくエンディング。何の面倒なメッセージもないかもしれないが、包み隠さないほどの人間同士の家族の物語が笑いの中に展開するストーリーと大邸宅を巧みに使った空間の演出。さらに冒頭の家政婦の不平不満を叫ぶファーストショットからのおもしろさといい、木下恵介の映像の真骨頂もあちこちにみられる。全く、多彩な監督である。本当に楽しかった


「遠い雲」
大人の初恋ドラマの傑作。木下恵介の映像リズムの感性にふるえる思いがした一品でした。古き町高山の情景をとらえるショットの美しさ、登場人物の交錯するストーリーを重ね合わせて紡いでいく組立のおもしろさに引き込まれてしまいます。

主人公圭三が北海道へ赴任する前に故郷の高山にやってくるところから物語が始まる。その地にはかつての初恋の相手冬子がいる。そして冬子は寺田家の長男敏彦と結婚をしたが死に別れ、その弟俊介との縁談話がある。

冬子と出会った圭三はお互いの古き恋心が芽生え、それが次第に古い町の中で噂になっていく。

クライマックス、圭三が冬子に東京にきてほしいと手紙を書く。それを届ける圭三の妹貴恵子、それに対する冬子の返事「東京へ早く帰って」。しかし冬子は周りの人々の励ましで高山駅へ。そして今にも乗ろうとしたところでホームから出てきた俊介と出会う。そして迷いに迷った末に思いとどまり俊介と高山の町へ戻っていく。一人圭三は汽車で旅立つ。

このシーンの畳みかけるようなカットの積み重ね。人々の入れ替わり。背後の音楽のリズムはもう卓越している。そして駅でのショット。高山のみやげ看板をバックにゆっくりと歩いてくる冬子のシーン。ゆっくりと向かっていく冬子の後ろ姿のシーンは名場面と呼べるワンシーンではないかと思います。

今となっては非常に古くさいテーマかもしれませんが、高山という古き古風な町を背景にした脚本が実に見事で、物語の発端から展開、集結に至るストーリー構成は実に見事で、そこへ美しく情緒あふれる画面づくりで描いていく木下恵介の演出もすばらしい。クライマックスの雨の降りしきるシーンでのやりとり、圭三の家の女中の息子良一のエピソードにからめた圭三と冬子のかなわぬ恋の行方という組立は絶品。

すばらしい傑作に出会いました。


「惜春鳥」
この作品も本当に良かった。ちょっとしつこいように思えるところもあるのですが、会津に集まってきた幼馴染の5人の若者たちの友情と青春をさわやかなタッチで淡々と描いていく。しかも、木下恵介らしい、細やかな演技指導なのか絶妙のシーンが随所に散りばめられている。どこか切ないような物語で、フラッシュバックを多用して説明的なせりふを最小限にして映像だけで登場人物を語っていきます。そして、入れ替わり立ち代りそれぞれの人物を丁寧に描いていき、その中にそれぞれの背後の物語が重層的に語られていく。オリジナル脚本ですが、実によく寝られたストーリーに感服します。

物語は東京で大学に通っていた岩垣が故郷の会津に帰ってくる。そこでかつての幼馴染牧田、峰村、手代木、馬杉と出会いそれぞれのいままでの人生を巧みなフラッシュバックで語りながら、今それぞれに持ち上がっている問題を中心に物語が進んでいきます。

冒頭で5人が芸者を呼んで騒いでいるところへみどりという芸者が飛び込んでくるくだりの導入部はまったくすばらしく、この後このみどりをふくめた物語がさらに語られて、ストーリーに深みが加わります。さらに脇役の演技陣たちの話芸うまさもこの映画の見所のひとつで、単なる演技以上に引き立ててくれるシーンの数々が主要人物の物語を引き立てていきます。

結局、岩垣は警察に追われていることがわかり、微妙に5人の友情にひびが入りかけますが、「最後の友情じゃないか」というせりふでまとめられるように4人がまたきづなを取り戻して映画は終わる。ちょっと当時の流行の青春映画のごとくさわやかな音楽が彩りを添える演出になっていますが、それでも一定レベル以上のできばえになっていることは確かで、胸を打つという言葉がぴったりの佳作だった気がします。