くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳」「恋愛社会学の

レジェンドオブフィスト

「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」
ブルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」の主人公チェン・ジェンはラストで大勢の警察が待ちかまえる中、まるで「明日に向かって撃て」のラストシーンよろしくストップモーションで銃弾に倒れたかに見えて終わります。このチェン・ジェンはいまやヒーローとして一人歩きしています。時は第一次大戦のヨーロッパ戦線で活躍しているところから映画が始まります。

まず驚くのはセットの巨大さです。ロングショットでドニー・イェンをクレーンカメラで豪快にとらえても、全く画面から舞台が途切れない。この迫力が、冒頭のフランス戦線で、敵の中に飛び込んで超人的なアクションで倒していくショットやクライマックス、日本人の道場へ単身殴り込み縦横無尽に倒していくシーンに大迫力の効果を生みだしています。

インファナル・アフェア」のスピーディなカットとシーン展開で息詰まるサスペンスを描いたアンドリュー・ラウ監督、今回の作品でも大胆なカメラワークでドニー・イェンの迫力あるアクションをロングでとらえていく演出はわくわくさせてくれます。

物語は第一次大戦、ヨーロッパ戦線から仲間たちと上海へ逃れてきたチェン・ジェン。クラブのオーナーリウと手を組んで迫ってくる諸外国、特に日本に対し抵抗運動をする組織を指導するようになる。

ある日、日本への抵抗運動をする人物の暗殺名簿が公になったことから中国人と日本人の対立が激化していく。チェン・ジェンは
たまたま上映していた「仮面の戦士」という映画のコスチュームに身を包み(なんとこれは「グリーンホーネット」のカトーの衣装)正義の戦士として戦うが、多勢に無勢で絶対的に不利。そのうちチェンの仲間が日本人に惨殺され自らも拷問を受けたチェンはかつて、日本人道場へ殴り込んだときの衣装とヌンチャクを手に日本人道場へ向かう。

道場の門下生と戦うシーンではブルース・リーの雄叫びを効果音として流し、サービスであるかのようにヌンチャクでバッタバッタと倒す。まさに「ドラゴン怒りの鉄拳」へのオマージュである。

そして、日本人の狩猟を倒して物語は終演。時に日本軍は着々と中国侵略を続け、その後もチェンは抵抗を続けたとしてエンドタイトルになる。

最初にも書きましたが、上海の町並み、クラブ”カサブランカ”、日本人道場など、CGや絵で描けない部分は巨大なセットで対応した美術がすばらしく、超大作の貫禄さえ伺えます。そこへドニー・イェンの本物のカンフーが炸裂する。爽快すぎるほどに大きく空間演出を施したこの作品、これからの中国娯楽映画の方向を見せつける一本だった気がします。

「恋愛社会学のススメ」
全体がイエローグリーンの色調で統一された淡い画面が印象的な一本で、物語はクリスとキッディという若いカップルの淡々とした恋愛の物語が語られていく。

真っ黒な画面でやや誇張されたような森の鳥類の声が響く。そして画面が開くとクリスとキッディがプールでいちゃついている。クリスの姉夫婦と子供たちが今から帰るというところで、遊んでいるキッディが子供とふざけてプールに飛び込む。

そして、この後はこの二人の物語なのだが、ここに友人のハンスとその恋人がやってきて、どこかクリスたちの関係がぎくしゃくしてくる。その様子を特に劇的な展開もなく描いていくから正直言ってしんどいです。少々居眠りしても物語の理解になんの死しようもない展開はどこをどう評価するのでしょうか?

ハンスも帰り二人だけになったもののどこか心地ないままの二人。しかし熱烈なSEXのあとキッディは家に帰るといいだす。そして死んだ振りを突然するキッディにうんざりするクリス。テーブルの上にキッディを寝かせてじっとみつめ、キッディがクリスの方へ顔を向けて映画が終わります。

実に静かで平坦な作品で、結局、その不思議なイメージがこの作品の評価なのだろうが、私個人的には退屈でまいりました。

「夏の終止符」
北極圏で気象観測をするまじめだが気の弱いパーシャと年輩の観測員セルゲイの物語である。
壮大に広がる雪原と流氷、そして遙か彼方までの水平線の景色は雄大であるが、とても美しいといえない。恐ろしいほどの寒々とした荒涼とした風景である。こんな中で長期間生活をしたら精神的な孤独感、追いつめられる緊迫感は極限に達するであろうというような自然の中が舞台である。

映画が始まるとそういう景色の中にオーバーラップしてくるタイトル、そして一人の青年パーシャが氷の張った湖を見下ろす場所でウォークマンを聴いている。なぜか放射線を出している物体が設置されていて、それを棒の先につけた測定機ではかってみたりする。

本来の観測所へ戻ってくると、一人で出かけたパーシャをしかる年輩のセルゲイ。どこかおやじのような雰囲気のこの男はここでの仕事が非常に長い。どういういきさつで若いパーシャがきているのかという説明はまったくない。

ある日、セルゲイは湖の炭にマスを釣りに行くといい、パーシャを一人残す。時間を決めて本部へ数値を報告しなければならないが途中は仮眠をとりながら時間管理しないといけない。
一人で留守をしているパーシャに本部からセルゲイの妻と息子が事故で危篤だからその旨伝えるようにと電文が届く。

ところが、セルゲイが戻る日、うっかり寝過ごしたパーシャは数値の報告を忘れあわてた拍子に電文を書いた紙を床に落ちて、セルゲイに報告を忘れるとともに、数値もでたらめだったので怒られてしまう。気の弱いパーシャは必要以上にセルゲイを恐れ、どんどん電文を渡す機会が離れていく。冒頭でも説明したが、ふつうならここまでいかないだろうというのがこの極限の地ならあり得ると理解していかないとストーリーをわかりづらい。と私は判断しました。
セルゲイは妻が好きなマスの塩漬けを作るのだと楽しそうに作業をしているのでなおさら言い出せない始末。

何とか、近々迎えの船がくることを告げたパーシャだが、それならなおさらと再度マスを釣りにセルゲイは出かけてしまう。
本部の指示でセルゲイを迎えにでたパーシャはシロクマに追いかけられ足を滑らせ的を失ったところでセルゲイに助けられ戻ってくる。しかし、さらに二人の確執は深まり、とうとうパーシャは逃げ出して、放射線を出す物体のある近くの小屋へ逃げる。

そこで、パーシャはセルゲイを懲らしめようとセルゲイのマスを放射線汚染させて食べさせる。もちろん自分も思わず汚染されてしまうのですが。
やがて、船がやってきて帰る日、セルゲイに「一緒に帰ろう」と誘うパーシャ。二人の確執は極限状況の中で修復された一瞬。美しい景色をバックにしっかりと抱き合う二人の姿があった。

とまぁ、こういう物語である。理解しづらい設定が随所にあるのですが、その辺を無視すれば非常にしっかりとした人間ドラマであり、二人の登場人物の性格付けが実に見事に描き切れている。パーシャが襲われるシロクマが遙か彼方からパーシャを見つけゆっくりと走ってくる様は美しいのにどこか寒気がするほどの恐怖を生み出します。

ハイスピードで時間の経過を描いたり、広大な景色の中にたたずむピンク色の観測所の姿が妙に浮いているというセットのおもしろさもこの作品の見所のような気がします。

ちょっと、しんどいところもありますが、全体に隙の少ない秀作であったと思います