くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パッション(ブライアン・デ・パルマ監督版)「ルノワール

パッション

「パッション」
パルマワールド全開、めくるめくブライアン・デ・パルマの世界を堪能することができました。最高におもしろかった。しかも、音楽がピーノ・ドナッジオとくれば、さらにわくわくなのです。

延々と主人公を追いかける長回しのカメラ、クローズアップの主人公と、舞台シーン、パーティーシーンとのスプリットイメージ、真上から俯瞰でとらえる螺旋階段のショット、現実か夢かわからなくなるようなカットつなぎによる繰り返し、なにもかもがブライアン・デ・パルマの世界。本当におもしろかった。

映画はアップルのコンピューターのアップ、そしてカメラが引くと主人公イザベルと、職場の上司で野心家のクリスティーンが並ぶショットから映画がはじまる。二人はドッチイメージという会社の上司と部下であるものの、仕事の上では意気投合しているようである。パソコンに写っているのは水の中に携帯が落ちたシーンのCMのようで、なんとPanasonicのELUGAという機種である。

二人は、このCMをださいと一喝する。

イザベルは夜中に目を覚ます。よいアイデアが浮かんだので早速部下のダニに連絡、映像をまとめてクリスティーンの元へ。彼女はろくに見もせずに、次のロンドンでのプレゼンにいくように勧める。クリスティーンがいく予定だったプレゼンに推挙されて有頂天になり、クリスティーンの恋人でもあるダークを助手につけてもらいイザベルはプレゼンを成功させる。当然、ロンドンでダークともベッドイン。

戻ってみると、なんと、社長のドッチがプレゼンのアイデアがすばらしいという言葉に、あれは自分の思いつきだと説明するクリスティーン。目の前のイザベルには、しゃあしゃあとこればビジネスだと言い切るのである。

イザベルが黒髪、クリスティーンがブロンドと、ヒッチコック的なイメージで配置される女性二人のシーンが実にパルマらしい。

クリスティーンがイザベルのアイデアを元にした修正案が最悪であったが、必死で自分を押さえるイザベルに助手のダニは、何らかの方法で才能を認めさせるべきだと勧める。

そして、イザベルはネットに自分のオリジナルのアイデアを流し、それがドッチ社長に認められ一気にイザベルはクリスティーンに復讐したかに見えたが、クリスティーンは今度はイザベルを辱めるべく、ロンドンでのダークとイザベルのベッドシーンを、ダークと二人で見ているところをイザベルに見せつける。

怒りが頂点に達し、事務所をでてエレベーターに乗り、駐車場におり、車に乗るまでをワンカットで追っていくカメラ。ヒステリックに車に乗るが、駐車場の柱に前後をぶつけて止まる。翌日ダグに見つけられ助かるものの、クリスティーンは今度は社内パーティの場でその車の様子を撮った防犯ビデオをみんなに見せ笑う。イザベルのクリスティーンへの殺意が徐々に芽生え始める。

じわじわと追いつめられ、精神的に限界に達していくイザベルのシーン。一方で、やや異常性欲をもつクリスティーンの性癖をダークから聞かされるイザベル。さらにクリスティーンからはかつて事故でなくした双子の姉クラリッサのことで心の傷を負っている等の話も聞かされる。

しかし、イザベルの殺意はさらにエスカレート。かかりつけの精神科で薬をもらいながら平静を装うべく必死で振る舞う彼女をじっと見つめるダグ。やがてダークが、会社の金の横領をクリスティーンが告訴するらしいことを突き止める。

クライマックスはイザベルがバレエの切符をとり、それを見るシーン。クローズアップのイザベルの顔、舞台のシーンがスプリットイメージになる。、そして、同じ時にクリスティーンが自宅で催したパーティーのシーンがかぶる。酔っぱらったダークがクリスティーンの家に。それぞれが繰り返し交互に二つの画面に映されていって、緊張感が頂点になる。

クリスティーンが客を送って玄関に戻ると、シャワーを浴びて目隠しをしてベッドで待っていてというメモが玄関に張られている。別の恋人のマイクからだと思ったクリスティーンがいそいそとシャワーを浴び、目隠しをして・・と流れていくと、突然、仮面をかぶった人物がクリスティーンを押し倒し、のどを切り裂く。飛び散る血。仮面は以前、クリスティーンの机からダニが見つけたショットがこの前に写されていたりするし、この日の直前、クリスティーンに、ダークの横領や、イザベルのことでじゃまになったダグは解雇を申し渡されている。

見ている私たちは、イザベルがアリバイを作ってクリスティーンを殺害したのだと思っているが、実はダニかもと混乱してしまう。

やがて、睡眠薬でもうろうとしているイザベルが警察に捕まる。以前、イザベルがクリスティーンにもらったスカーフの切れ端が殺害現場にあったためである。訳も分からず自白して、そのまま留置所へ放り込まれるが、現場から彼女のDNAはでてこないし、バレエを見ていたというアリバイも成立する中で、冤罪として彼女は釈放される。しかし、イザベルの部屋で、クリスティーンがダークを告訴するという文面の書類が警察に見つかり、一気に真犯人はダークへ。

クリスティーンの葬儀の場に、死んだと思っていたクリスティーンの姉らしい姿を認めるイザベルとダニ。

一段落した日、ダグは事務所でいきなりイザベルにキスをする。ところがイザベルは拒絶反応を。ダグはイザベルが好きで、そのために協力してきたつもりだったので、裏切られたダグは、事件の日、イザベルがクリスティーンを殺害するところを動画に撮った携帯を見せ、刑事にすべての資料を送ると脅す。

そしてイザベルは仕方なくダニとベッドに。夜中に電話が鳴る。外に刑事が花を持ってイザベルの部屋に階段を上がってくる。真上から見下ろす螺旋階段。背後に「めまい」のテーマ曲をアレンジした音楽が流れる。血だらけのスカーフをかけたクラリッサがエレベーターで上がってくる。イザベルは引き出しの奥のダグの携帯を見つける。瞬間起きあがったダグを押し倒し、首を絞める。玄関のチャイム。首を絞めるイザベル。ダニの足下で、携帯から動画が送信されかかるダニの携帯。ノックしてもでないので、あきらめて刑事は花をおいて帰りかける。死んだダニをおいて、玄関にいくイザベル、足元に花、見上げると背後にクラリッサが迫り、首を絞める。瞬間目覚めるイザベル。傍らにダニの亡骸。エレベーターの中でダグの携帯から送られてきたイザベルの殺害シーンに動画を見る刑事、「THE END」の文字。エンドタイトル。

と、一気になだれ込むクライマックスは絶品。結局、イザベルは捕まることになるのだろうが、果たしてクラリッサは生きているのか?ダニは本当に死んだのか?様々な憶測を残して映画が終わる。明らかにヒッチコックの「めまい」を意識した展開が実にパルマ映画の醍醐味として堪能させてくれます。オリジナル映画があるらしく、それのリメイクらしいですが、完全にブライアン・デ・パルマの世界でした。本当におもしろかった。


ルノワール 陽だまりの裸婦」
巨匠オーギュスト・ルノワールの晩年を描いた物語であるが、彼一人のお話というより、戦地から帰ってきたジャン・ルノワールとの親子の物語、さらには、ルノワール最後のモデルとなるデデとの物語であった。

森の中を駆け抜けて自転車に乗った一人の女性アンドレ(デデ)がスクリーンに映し出されて映画が始まる。沿道の人々、気につるされた人形などがとらえられ、やがて一見の家にたどり着く。そこは絵画の巨人オーギュスト・ルノワールの私邸である。そこで、夫人にモデルになることを頼まれたからといって中に入れてもらうが、すでに夫人はこの世にいない。

しかし、オーギュストは彼女をモデルに絵を描き始める。しかし、自分を描いていると思ったら実はレモンの絵だったりするのである。すでに病のために間接が痛み、自分で歩くこともできないオーギュスト、妻に先立たれ、子供たちは戦地に行き、それでも使用人をモデルに絵を描き続ける。

そこへ、足を負傷したジャン・ルノワールが帰ってくる。

こうして、ジャンとデデ、そしてオーギュストの物語が始まる。デデの裸身に引き込まれるオーギュストは痛む関節を押して、生涯最後の名作とされる浴女たちを描き始める。一方デデの魅力に引かれるのはオーギュストだけではなく、ジャンもまた彼女の魅力に見入られ、恋心を持ち始める。

お互いが、いつの間にか嫉妬しているかのような展開になっていくが、淡々と語られる物語はかなり静かである。リー・ピンピンのカメラが実に美しいが、昼のシーンの色彩配分が緑を中心に配色されるため、ルノワールの絵画の美しさを再現するには至っていないのがちょっと残念。
ただ、夜のろうそくの光などを利用したシーンはさすがに美しい。

やがて、足の傷も癒えたジャンは再び戦地へ行くために志願し、オーギュストに別れを告げる。ぎこちない姿でやっと立ち上がったオーギュストがジャンとしっかりと抱き合うラストシーンは胸が熱くなります。その姿をじっと見つめるデデのほほえみでエンディング。

ナレーションで彼らのその後が語られ、エンドタイトルとなります。

非常に淡々と語られる絵画と映画の巨人の物語は、さすがに地味なストーリーですが、落ち着いた色彩で語られる良質の一本でした。