くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「やがて来たる者へ」「メサイア」

やがて来たる者へ

「やがて来たる者へ」
久しぶりに純粋に魂を揺さぶられる傑作に出会いました。詩的ともいえるファンタジックなまでの画面、胸に響くように伝わってくる主人公の少女マルティーナのふるえるような不安、じわりと迫って寒気を覚えてくるような戦争の恐怖。なにもかもが一遍のファンタジックなドラマのように心に刻まれてくるすばらしい作品でした。

開巻、水の滴るような音がしてカメラが縫うように薄暗い部屋を次から次へと移動していく。ほんの今までそこに人が寝ていたようなベッドが次々と映し出されますが、どれも空っぽ。執拗に何かを探すようなカメラワークが続く中、突然シーツから子供がのぞき込んで場面が一転します。水の滴る音かと思っていたら、これは背後に流れる音悪で、このシーンだけでなく、様々なシーンに特徴的な音楽が挿入され、見事にシーンの作り上げていきます。

時は1943年12月。生まれたばかりの弟をその腕の中で亡くして以来、言葉を発することのなくなったマルティーナ。しかし、母レナは妊娠し、まもなくこの家族に新しい子供が産まれようとしている。
イタリア北部の小さな村。ドイツ軍が近くの都市ボローニャに迫る勢いで、戦火は次第に近づいてきているものの、まだ村人に危機感は少ない。時折訪れるドイツ兵に敵意は持つものドイツ兵もまだ差し迫った恐ろしさを見せてこない。一方パルチザンは山にこもって抵抗を続ける。

そんな背景の中、映画はマルティーナの視線を通じてじっくりと迫ってくる戦争の恐怖をとらえていく。しかし、マルティーナの心の視点は実に美しく、窓からみる落下傘部隊が降りてくるシーンはまるで童話のようであるし、見下ろした草原に保腹前進で進むドイツ兵の蟻のようなショットはまるで絵画のごとく叙情的である。森の風景、夜の闇に光る山の彼方の戦火の炎も幻想的でさえあり、手前に光る蛍はとても今が第二次大戦下と思えない様子を見せる。

戦争を扱った物語なのに、なぜここまで詩的な美しいシーンが続くのかとおもっていたが、つまりこの少女マルティーナの心象風景として物語がつづられているからである。

導入部分で心の中で朗読する作文の言葉だけが唯一彼女が発する言葉である。にもかかわらず物語は彼女が建物から建物へと走り抜け、さらに森や木々の間、窓から目にする様々な光景によって語られていく。

両親や村人たちがドイツ兵におびえながら、教会に助けを求めたり、山の中の洞穴に逃げ込んだりするシーンはどんどん描写を繰り返すが、つねに、マルティーナの心の視点がそこにある。

要するにマルティーナにとってはドイツ兵も優しく見える瞬間もあり、彼方に見える落下傘や保腹前進する兵隊もふつうの人間で、自分の家族との分け隔てなど見えないのである。
ある日、森でドイツ兵が自分で穴を掘り、その後パルチザンに銃殺されるシーンを目撃。敵味方さえも混乱してしまう。

しかし、ある日森の彼方の建物が燃えているのを見つけたマルティーナはあわてて父親を呼ぶ。父はそれがドイツ兵の仕業と気がつき、村人たちの避難を促す。しかし、パルチザンの一斉検挙をもくろむドイツ兵に誰もが捕まり次々と女子供まで狙撃されていく。この映画の中心となるマルザボットの虐殺である。

マルティーナも一緒に逃げたが、途中で赤ん坊が気になり引き返す。その途中、母が殺されるのを目撃。赤ん坊を連れだして森の隠れ家の洞窟へと逃げ込む。
しかし、ミルクを探しに村に戻り入り込んだ一軒の家で部屋を模索する彼女の視線が冒頭のショットと重なる。しかし、たまたま窓の外を眺めた彼女はドイツ兵に見つかりつかまってしまう。

しかし、このドイツ兵は一見の建物の中にかのじょうをほうりこむのだg

一方、ドイツ将校に好意を持たれていたマルティーナの叔母は、運良く助けられる藻、その将校を刺し殺し、銃殺されてしまう。

運良く助かったマルティーナは赤ん坊を連れて村はずれの教会へ。そこでミルクをもらい一息ついたかに思えたが、そこにもドイツ兵がやってくる。飲み食いをして特に危害は加えない者の、不安を覚えたマルティーナは赤ん坊を連れ出す。そして大木に座り赤ん坊を抱いたマルティーナの口からいつのまにか子守歌が。カメラは彼女の後ろ姿をじっととらえながらエンドクレジットが流れる。

胸が熱くなるすばらしいラストシーンである。
反戦をテーマにし、歴史に埋もれそうになるマルザボットの大虐殺を描いているのだが、このマルティーナの視線が実にすばらしい。映画としての完成度は超一級品だろうと思う。いい映画に出会いました。

メサイア
金子修介監督作品だったので見に行ったが、何とも感想を書く気にもならない一本で、途中ででていきたくなった。いったい、こんな物をつくって料金を取るのか?と叫び出したくなった。

確かに、今をときめくイケメンぞろいのキャスティングである。ジャニーズなのかそれとも戦隊物のヒーローたちなのかおじさんには見分けがつかないが、高校生から政府組織のトップまで20歳そこそこのガキばっかりで配役していて、骨のある俳優らしい人は一人もいない。当然、演技にメリハリもテンポもないためにだらだらとせりふが応酬されていく。

物語はコミック原作なの課と思えばオリジナルである。ある近未来、世界は北方連合と東連邦に分かれていて、その諍いが裏で行われているという設定らしい。舞台は富士のすそ野の全寮制の高校。そこに一人の転入性がやってきて、どうやら、二つの連合のスパイの一人がこの高校に入り込んでいるらしく、その特命をうけた政府の警察機関のエリート集団さくらがこの高校へ潜入してきて操作しているという内容のようである。壮大な背景であるが、ある意味、日本のSFアニメの得意とする設定である。

捜査で潜入したにも関わらず一人の高校生と親しくなり、その友人が実は敵方の弟立ったりと、どうでもいい物語が中心になる。実は探っていた犯人はヒロインの女子高生と生徒会長たちというクライマックスは思わず吹き出してしまう。

大したアクションも素人に近い演出で、いったい金子修介の力量はどこに発揮したのかと疑ってしまう。

そんなわけで、完全に時間の無駄を過ごした一本でした。