くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「燃える秋」

燃える秋

公開当時、非常に評判の悪かった作品であるが、思っていたよりもいい映画だったように思います。
前半部分が特に良い。せりふと映像を分離し、通常のやりとりのシーンの合間に画面とは違うせりふがかぶるシーンを頻繁に挿入する。さらに、不気味なほどに佐分利信扮する影山の存在が淫美なムードを醸し出す。その中で揺れる主人公亜希の姿が妙にエロティックなのだ。

そして中半、北大路欣也扮する岸田が情熱的な若者として登場し、影山の存在がじわじわと本物の愛の形のごとく偶像化されていく。その頂点が後半、イランに渡った亜希が影山の幻影をみて高熱に倒れる下りである。そして、終半、岸田がスライドで撮ったペルシャ絨毯のデザインを大量生産する機械織りの絨毯に適用すると言ったとたんに心変わりする下りである。

本物の愛の象徴として登場するペルシャ絨毯の姿。何年も何十年もかけて仕上げられる一品にしかない抽象的ながら唯一無二の価値。それこそが亜希が身をもって感じ、手にした影山から与えられた愛の姿なのではないでしょうか。

と、私の解釈はこうですが、いかんせん、優柔不断にしか見えず、妙にかたくなにこだわる主人公亜希という女性に個人的には感情移入できないし、正直うっとうしくさえなる。だから、この映画が評価されなかったのかどうかはともかく、小林正樹作品としてはあまり好きな一本にはならない結果となったようです。

前半の見事なオリジナルな演出に対して後半がどこか真野響子のイラン紀行のようになった。その点もちょっと物足りないですね。

とはいっても、全体の作品のレベルはそれなりであるし、最後まで間延びしない画面作りのすばらしさは評価してしかるべきだった気がします。