くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「今年の恋」「スリランカの愛と別れ」「ぼくたちのムッシュ

今年の恋

「今年の恋」
とにかく楽しい。こんなテンポのいい映画はそうざらにあるものではないですね。上級生に絡まれる青年たちのファーストショットから除夜の鐘を突くラストシーンまで間段無く繰り返されるしゃれたせりふの応酬と軽快な映像と音楽。これがモダンコメディといわんばかりで木下恵介の映像センスのすばらしさがこれ見よがしにでてくる。

岡田茉莉子扮する小料理屋愛川の娘相川美加子と吉田輝雄扮する会社の重役の息子山田正との淡い恋物語が流れるまで登場人物たちの余裕しゃくしゃくの楽しいせりふの応酬。時に皮肉に特に毒舌で、時に脳天木な多彩きわまるせりふが次々とぽんぽん飛び出し、軽いタッチの音楽に乗って物語は駆け足のように進んでいきます。

俯瞰でとらえる車のショットやさりげなく見せる京都の絵はがき、両家の玄関口をずーっとロングで引いてとらえるカメラアングル。流れるようにゆっくりと人物を追っていくスローテンポのカメラのリズムなども絶妙に組み合わさって凡人では絶対作れない傑作コメディができあがっていく。

東山千栄子が浪速千栄子がそのほかもろもろも俳優たちが織りなす職人芸のような会話が楽しいし、途切れることなくストーリーを紡いでいく。母の形見のライターなどのほんの些細な小道具に至るまで全く気を抜かない演出が施され、それでいて肩の力を抜いた軽いタッチで演出していく木下恵介の姿が目に見えるようでした。

本当に楽しいしゃれたコメディの秀作。これが映画です


スリランカの愛と別れ」
スリランカで繰り広げられる4つの恋の物語、愛の物語を平行したストーリーで描いていく作品。最初はそれぞれがバラバラでまとまりがないように思えるのですが、どこか微妙に絡んでいるストーリーに気がついてからはその展開を理解することができました。

テレビドラマに活躍の場を移してから9年ぶりに劇場作品に臨んだ作品ということなのでどこかテレビ的に見えなくもないし、その題材も当時の世相というかはやりを意識したような内容になっているのはちょっと鼻につきます。

映画としての出来映えは私の感想では今一つかなという感じで、現地の少年とその兄の物語、大金持ちの婦人とその使用人のプラトニックな恋、主人公の部下の青年と現地の女性の恋物語、そして主人公と美しい宝石のバイヤーとのラブストーリーも今一つ骨子が見えてこない。

全体に凡凡としたオムニバスで関連づけるのかづけないのかも中途半端。木下恵介作品としては中の下という感じの一本でした。


「ぼくたちのムッシュ・ラザール」
アカデミー外国語映画賞ノミネートのカナダ映画。小学校を舞台にした教師の話ということだったしヒューマンドラマということなのでおきまりの先生と生徒の心の交流を描いた感動ドラマかと思っていたのですが、なんのカナダという国柄や難民問題、アルジェリアの問題、現代の小学生の教育の問題など非常に奥が深く克つ複雑な内容にとまどってしまい素直な感動に浸れ無かった。

雪の残る校庭、一人の少女アリスのところに少年シモンが近づいてきてふと牛乳当番を思いだしたシモンは教室の中へ駆け込む。そしてある教室へ近づいたところで扉の外から中を覗くと担任の先生が首をつっている姿を目撃。それは彼が大好きだったマルティネス先生だった。あわてて人を呼びにいくが、騒ぎに乗じてアリスもその現場を目撃してしまう。そしてタイトル。

ショッキングなファーストシーンとシンメトリーな構図を多用した美しい画面が好対象でどこか冷たいムードが漂う。

代用教師を捜す教師の前に一人の男子教師がチラシを見たとやってくる。これが主人公のバシール・ラザール先生。詳細に調べもせずに採用するという国柄はともかく、ここから心に傷を負った生徒たち、特にシモンとアリスとバシール先生との物語が始まる。

ただ、日本やアメリカのこの手の映画によくある展開とは裏腹にどこかこの先生にも影が見え、生徒たちとの交流にもどこかちぐはぐなところがある。しかし、先生の自殺の原因を追求するよりもその先生を慕っていたシモンの本心にたどり着きさらにアリスの心の傷にも真摯にふれていくバシール先生の行動はストレートな感動を呼ぶ。

ラストで、心に思い詰めていた感情を吐き出して泣きじゃくるシモンのショット、さらに難民であることがばれて去っていかざるを得なくなるバシール先生の最後の授業での寓話のシーンは涙を誘うし、さらに去っていくバシール先生に飛びついて抱きつくアリスのショットで暗転となるエンディングはすばらしい。

ふつうの学園ドラマ風とはちょっと違った内容の深さに戸惑うものの非常に丁寧な映像で淡々と語る監督の演出はなかなか見応えがあり、その本当のメッセージは捕らえがたかったかもしれないが見終わってから不思議な感動が心に残る一本になった。