くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「果てなき路」「断絶」

果てなき路

「果てなき路」
モンテ・ヘルマン監督21年ぶりの新作ということですが、正直、モンテ・ヘルマン監督の知識については皆無と言っていいのです。

さて、映画ですが、エンドタイトルの後に真実の物語であると終わるところから、そのなの?と思う。めくるめく現実か映像世界かというその境目に陶酔してしまう一本。そして、懲りすぎた物語構成は決して退屈に終始するわけではないがとても商業映画と思えない魅力もある。

一枚のDVDが取り出され、パソコンに挿入される。「果てなき路」と題されたディスクであるからいわゆる映画の映像である。パソコンの画面に1人の女性がベッドでドライヤーを当てている。窓の外に車がやってきて1人の男が家に入っていく。銃声、女がでてきて車で去る。男がでてきて別の方向へさる。タイトル。

女は湖のそばに車を止める。男はセスナに乗る。女の目の前に突然セスナが墜落。女はトンネルの中にはいり泣きじゃくる。タイトルは監督はミッチェル・ヘイマンと出て暗転。

「あなたの映画ならこの後ヴェルマは自殺するわね」と語るブロンドの長い髪の女ナタリー。

こうして幕を開けるが、ヴェルマとタッシェンという男の愛憎ドラマの実話を映画にするためにハンティングと撮影を始めるミッチェル・ヘイブンという監督を中心にした集団の物語である。かのようだ・・・

主演女優はローレルという新人を起用し、撮影スタート。原案を書いたのは冒頭ででてくる女性ナタリーである。

現実の物語と映画の中の物語が交錯、ヴェルマとタッシェンの真実の話がかぶってくる。そこへブルーノという保険調査員も絡んで、現実か映画撮影の中の世界かがさらに複雑に。そしてローレルとミッチェルは自然と恋仲になっていく。

実はヴェルマが死んだのも別人と入れ替わり、本当はローレルがヴェルマと入れ替わったのか?さらにセスナの墜落で死んだとお思われるタッシェンも実は生きている。死体の歯のカルテを入れ替えるショットも挿入され、死体を入れ替えるシーンなども描かれる。実は映画という名を借りた搾取事件であるような展開へと進んでいく。

ある夜、ブルーノがローレルとミッチェルの部屋にやってきて、真相をつげピストルでローレルを撃つ。逆上してミッチェルがブルーノを撃つ。カメラで死んだローレルを撮るミッチェル。パトカーが到着。

カメラはゆっくりとパソコンの画面に映る映像から引いていくとミッチェルの姿を映すナタリー。場所は監獄の面会室。ナタリーがすべての映像を撮りおわり、部屋を出る。監房の扉が閉じられ、カメラを抱えて去っていくナタリー。エンドタイトル。

何とも二重に組まれた劇中劇か、真相と映画との狭間が交錯する物語か、繰り返されるシーンが一方で現実、一方で映画のワンシーン、しかし、人物の姿が重なってミステリアスなおもしろさも加わる。この魅力がたまらない陶酔感である。手放しで感激するほど単純ではないのですが、魅力ある作品であることは確かでした。おもしろかった。

「断絶」
40年ぶりによみがえったモンテ・ヘルマン監督伝説の一本。ニュープリントでもあり、詳しい知識もないのですが必見の一本らしいので見に行きました。

なるほど、これはアメリカンニューシネマの終盤の秀作として位置づけられるにふさわしい名編でした。
シンプルなストーリー展開のロードムービーですが、時代の若者たちのいきる姿が生々しいほどの感性で描かれています。

ザ・ドライバー、ザ・メカニック、GTO、ザ・ガールと固有名詞を排除した登場人物の名前にモダンな中に独特の若々しさが漂います。

ロードレースで賭をし、その日の生活を稼ぎながらいきるザ・ドライバーとザ・メカニック。自慢の車は一昔前の姿ながらエンジンをチューンアップし、最新の車に負けないほどのパワーを発揮する。まだまだ車が若者たちのあこがれで、しかもメカニックの産物という位置づけであった時代を見事に映し出している。

途中、ちらちらと登場する最新の車を乗っているGTO(ウォーレン・オーツ)が次第次第に物語の中に絡んできて、さらに、さりげなくザ・ドライバーたちの車に乗り込むザ・ガールの不思議な存在感も作品全体の流れにそよぐ風のような役割を与えて、単調なストーリーに不思議な揺らめきを加えていきます。

本編はGTOとザ・ドライバーたちがワシントンまでの賭競争をするのがメインになりますが、派手な紆余曲折があるわけでもなく、途中に派手な事故を目撃したり、南部の保守的な町の中でどこか不穏な空気を感じさせたりしながらの叙情あふれるストーリーが不思議なほどに画面に引き込んでくる。

つきつ離れずに同乗するザ・ガール、乗せるヒッチハイカーそれぞれに作り話をして虚勢を張るGTO、いつの間にか向きになっていくザ・ドライバーなどなど、単調な中に見事な人物ドラマが描かれています。

結局、最後はザ・ガールはたまたまみかけたバイク乗りの若者に当然のごとく乗っていってしまう。それまで持っていた大きなリュックはその場に捨てていく。その姿を見たザ・ドライバーやGTOたちは、結局、彼女によってつながっていたのかどうか、わからないままに賭けのこともどうでも良くなって走り去る。

最後のロードレースのショット、ザ・ドライバーの視線で車が走り出す。急にスローモーション、フィルムが燃えていくようににじんでしまってエンドタイトル。すべてがむなしく過ぎていく若者たちのひと時の物語といわんばかりの虚脱感が漂う。これこそアメリカンユーシネマの世界である。

なるほど、これは秀作だ。と感じいることができる一本でした。