くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「新しき土」

新しき土

デビュー間もない16歳の原節子が主演をしているという作品が突然、公開という話で、半分物珍しさで見に行きました。

国際合作映画ということですが監督は日本の伊丹万作とドイツのアーノルド・ファンクの共同監督で、ものの本によると伊丹監督とファンク監督に意見の食い違いもあり伊丹版とファンク版があるらしく、今回はファンク版の公開でした。

とにかく映画としては全くおもしろくない。というか、どちらかというの日本の紹介映画のような様相で、物語があるとは言うものの、日本人にとっては疑問だらけのデタラメ映画でした。まぁ、第二次大戦前でしかも友好国ドイツとの合作という時代性を考えればこのあたりも仕方ないといえばそうかもしれませんが、それにしても、当時の世界の人々の日本に対する知識、ドイツの日本に対する偏見はこんなものだったのかとある意味びっくりでした。

物語はヨーロッパに留学していた輝男(小杉勇)がドイツ人ジャーナリストの女性ゲルダを連れて日本へ帰ってくるところから映画が始まる。日本にはヨーロッパへ留学する前に許嫁として結婚する予定の光子(原節子)が待っている。養子になるという文化からまずゲルダが疑問に思い、質問を輝男にぶつけてくる。富士山が写され、東尋坊に打ち寄せる激しい波のショットや円月島などの奇岩が並ぶ美しい海岸線などが繰り返し日本の現風景が登場する。さらにわびさびの様子、華道、茶道、弓道などの所作が次々と紹介され、その合間にストーリーが進んでいくのだがなんともちぐはぐで支離滅裂である。

16歳の原節子は確かにかわいらしいし可憐でさえある。それでいてその存在感は別格で国際的にも通用するカリスマ性があるのを目の当たりにする。

西洋文化に染まった輝男は光子との結婚をやめるかのような行動で光子の父巌(早川雪洲)や実父などと言葉を交わすシーンもあるものの、光子の家のそばに宮島の鳥居があったり、輝男が泊まるホテルの描写に阪神電車のネオンが写ったり、さらには鎌倉の大仏まで登場、全くその地域的な物理的な部分は皆無に等しく、とにかく日本の代表的な観光地が次々紹介されるのにはまいった。その上、火山国ということで家のそばに火山まである始末。どんなところやねんとつっこみたくなる。

そして、輝男は次第に日本の良さを再認識し、それまで洋服だったのにいつの間にか着物になってるし、ことあるごとに写される満開の桜のシーンがあるにも関わらず輝男の実父は田植えの準備をしている。季節感もなにもあったものではない。さらに、外国人の目から見た日本に入っている西洋文化の場面も居酒屋や妙なキャバレーじみたところなど所々に挿入されていく。

輝男と光子のことについて家族会議をするべく実家の輝男に光子の父巌から手紙が届く。なぜか日本語の手紙がドイツ語の手紙にすり替わってという妙な展開と適当な編集もちらほら。一方のゲルダは日本の文化を身を持って知るに及んで輝男から去って帰国の途につく。

クライマックス、絶望したらしい光子が婚礼に着る着物を持って火山に登る。次第に火山が噴火しそうな様相になってきて、いなくなった光子を追って輝男が火山を追いかける。火山弾が降り注ぐ中、裸足になり、やけどを負いながら延々と光子を追っていう。このクライマックスが実に長い。というか、これはいったいどんなシチュエーションなのか?

あわや火口に飛び込むのではというシーンの直前に輝男は光子に追いつき、気を失った光子を抱き抱えて山を下りる。そして、どうやら二人は結婚をしたようで、いつのまにか赤ん坊も出来、輝男はトラクターを運転して広大な大地を耕している。中盤で出た満州国の話があったのでおそらく満州にわたったという展開なのだろう。当時の世間の常識として満州国の存在は当然であり、その行き来もそれほど不自然ではないのである。兵隊たちのクローズアップも交え、まさに時代は一触即発の様相である。

これといったテクニックもない映画で、本格的なスクリーンプロセスを日本で初めて行った円谷英二の参加もまたこの映画のポイントなのかもしれない。ときおり登場人物が歌を歌ったりするシーンもあり、なにをどう感想を書けばいいのかわからないような珍品映画でした。

それにしても原節子はやはりかわいらしいですね。ただそれだけの映画でした