くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「それでも、愛してる」「この天の虹」

それでも、愛してる

「それでも、愛してる」
ジョディ・フォスター16年ぶりの監督作品。
具にもつかない駄作ではないものの、特に秀でた作品でもなかった。宣伝ではビーバーのぬいぐるみを通じてしかはなせなくなった主人公ウォルター・ブラックのお話かと思ってい亜が、一方で長男とその彼女の物語が流れたり、次男の物語もさりげなく流れたりと、ちょっとキーになるストーリーが見えてこないのが残念。

映画が始まりおしゃれなタイトルが終わると主人公ウォルターが鬱病になってふさいでいる生活が手短に語られる。おもちゃ会社の二代目である彼にとってはなにもかもの放火につながりかねない状況。愛する妻メイヴィルもそんな彼をどうしようもなく、長男は敬遠し、次男は寂しい想いをしている。

そんな彼がある日ビーバーのぬいぐるみに語りかけられたような錯覚に陥ってこのぬいぐるみを通じて会話をするようになるというのが物語の発端。

会社もうまくいって盛り返し、妻との仲も何となくうまくいく。次男とも心が交流してくる。一方描かれるのが長男と彼女の物語。これがいけない。かえって主人公のメッセージが薄れてしまった。

結局、ビーバーのぬいぐるみが自我を持ったように家族の元に戻ろうとするウォルターを脅迫し始め、まるでホラー映画のごとく、ウォルターは自らに左手を切断してビーバーに別れをつける。

そして、再びリハビリをはじめ、会社の経営から退き、長男の恋もうまく流れ初めて、家族でジェットコースターに乗っているシーンでエンディング。まだまだ完治しないウォルターの顔がこの家族の未知なる未来を暗示する。

全体にこじんまりとまとまりすぎて、エピソードの膨らみに欠けるのが何とも残念で、どんどん話題になっていくビーバーとウォルターの話も尻切れトンボになって収束する。

まぁ、ふつうの映画だったかなという感じでした。


「この天の虹」
冒頭から八幡製鉄所の様々な設備や施設が紹介される。明らかに八幡製鉄所の企業宣伝映画のごとくである。

制作されたのは昭和58年、日本が高度経済成長を突き進んでいた時代。まだまだ世界のソニートヨタなどは弱小企業で日本の最先端は基幹産業であるこの鉄鋼業などの重工業であったじだいである。

そんな、人々のあこがれである八幡製鉄所を舞台にその社宅の中での従業員たちの物語を淡々と描いていく。

恋があり、見合い話があり、若者の夢があり、親子の諍いもある。それぞれのエピソードは実にたわいのないものであるが、田中絹代久我美子笠智衆をはじめ演技力のしっかりした俳優たちをそろえ、川津祐介という希代の新人を迎えて描く物語は見ていて非常に安心して物語ののめり込める。そして、母の愛や父の愛など木下恵介らしい物語もしっかりと描かれている。

大半の映像は八幡製鉄所のすばらしさを紹介するようなシーンが多いが、夜の社宅の景色を見上げるようにとらえるショットや巨大な工場の姿を見下ろすシーン、もうもうと吹きあがる煙突からの煙のシーンなどの中にこの時代を語るべきと考える木下恵介の視点がみられる。

木下恵介監督だから欲目に見るわけではないが、この作品に隠れたメッセージはまさに日本の現代(当時)であり、真正面にとらえた映像が語る日本の姿なのだと思う。黒澤明溝口健二などの巨匠と根本的に違う木下恵介の偉大な一面がこういう作品に見えているのではないかと思うと、この監督の底知れない懐の大きさと時代を鋭く読む感性のすばらしさに改めて頭が下がるのである。