くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「今日もまたかくありなん」「新釈四谷怪談」「なつかしき笛

今日もまたかくありなん

「今日もまたかくてありなん」
高度経済成長まっただ中のあるサラリーマン夫婦。一夏を自宅を上司に貸すことになり、妻は軽井沢の里へ帰る。そこで繰り広げられるなんとも奇妙なエピソードの数々なのだが、いったいなにをどう描いていくのかが突拍子もないくらいに飛んで飛んで次々と話が展開。

要するに一夏の出来事を淡々と描いて何事もないように自宅に戻って9月1日というエンディング。

悪くいうと支離滅裂なストーリー展開にストーリーの骨子が全く見えないのだが、これもまた木下恵介の味なのかもしれない。

軽井沢ではどこからきたのか見るからにやくざもののチンピラや不良まがいの下っ端が地元の人々を悩ませ、妻に逃げられている男が一人娘を育てているが、病気でその娘が死ぬと自暴自棄になってチンピラたちを退治にいく。なんともいえないつじつま合わせの展開もびっくりだが、ほとんど空間の移動シーンをカットし、いきなり次々とエピソードが語られるカットの連続には正直呆気にとられてしまうのです。

短い上映時間の中にただただエピソードをつないでいってほんのわずかな一夏のひとときを当時のローンや上司とのつきあいに翻弄されるサラリーマンの悲哀を交えて描くという意図は見えるのだが、いかんせんジャンプカットが多すぎる。これも木下恵介の多彩なる一本でした。

「新釈四谷怪談
ご存じ怪談ものの定番。映画が始まると雨の中、一人の男が金庫破りをするシーンから映画が始まる。延々と移動撮影をし、ワンカットで見せる演出が目立つのがこの作品の特徴である。

時に、二人の人物から別の人物へとカメラは建物のセットの中を縦横に移動しながらとらえていく。流麗さの中に男と女の情念の渦巻きが次第にうねりを帯びてくる前半部分の人物描写は見事で、普段の抒情あふれる木下恵介の世界とはまた違った印象で語られていく。

伊右衛門がチンピラ直助にそそのかされ、次第に欲に目がくらんで岩を毒殺するまでが前半部分。そして休憩の後後半へ続いていく。

後半に入っても、この手の怪談映画のようなどろどろした怨念映画にならずさすがに品のよい映像展開が続く。もちろん、有名な戸板のシーンや天井に現れる亡霊のシーンは登場するものの、講談にでてくるような顔が腫れたお岩がうらめしやと伊右衛門を襲うシーンはなく、丁寧な展開で推理ドラマのようにクライマックスへとなだれ込む。そして伊右衛門の婿入り先が炎につつまれ焼け落ちてエンディングとなるが、この後半も長回しのカメラワークと美しい構図のショットが目立つのはさすがに木下恵介の作品らしい。

全体が非常に上品な怪談映画という感じの一本でした

「なつかしき笛や太鼓」
瀬戸内海の小さな島にやってきた一人の教師がその島の少年たちにバレーボールを教えて、近隣の島の対抗試合で優勝させるまでを描くいわゆる熱血教師と生徒たちの感動ドラマです。

美しい島の景色のショットよりも特筆するのがクライマックス、延々ととらえるバレーボールの試合のシーン。特に技巧や工夫もなく1点1点取っていく様をひたすらカメラが追っていくのには頭が下がる。というか、ここまでとらえるのは製作年度を見れば納得いくかもしれない。つまり日本のバレーボールブーム真っ最中なのだ。それをストレートに作品に取り入れたのもまた木下恵介らしいといえばらしいですね。

木下恵介の作品は時としてその製作年度を克明に反映している作品がある。それがつまり普遍的なテーマを中心に描いた黒澤や溝口、小津などがまず世界に認められたのと根本的に違う点かもしれない。

しかしながら、今回の特集上映を追いかけていくと木下恵介の柔軟性とチャレンジ精神あふれる映像演出の多彩さに目を奪われるし、木下恵介が天才と呼ばれることも十分に納得がいくのである。

男女混合でないとバレーボールのチームもできない小さな島でまだまだ学校の活動に理解のない父兄たちの反感を買いながら熱意で乗り切っていくという一種ありきたりのドラマであるが、これもまた時の世相を敏感に映像にした木下恵介の作品の一本である。

抒情的な美しいショットやシーンも時々見受けられますが、ため息がでるほどではなく悪くいうとわざとらしいショットの方が多いかもしれない。それでも、ほとんど素人の少年少女たちをストレートにとらえていくカメラは実にみずみずしいし心地よい。嫌みのない素朴で素直な感情に包まれた映像をとらせるとやはりその手腕を発揮しますね。優しい映画でした