「拝啓、愛しています」
それほど期待もしてない。宣伝で見ている限りは老人同士の恋物語かと思っていたら、中盤からはもう涙がでっぱなしに感動してしまった。とっても楽しい、でもとってもファンタジックでピュア、さらにしっかりとリアリティある老人問題をさりげなく挿入した秀作でした。というより、とにかく涙が止まらないほどに泣いてしまいました。
夜明け、一人の老人マンソクがバイクで牛乳配達をしている。途中の坂道でリアカーに段ボールを積んで運ぶ老人ソンとすれ違うが、そのときにバイクが石を踏んでとばしてしまい、その石に当たったソンが転倒。あわててマンソクが駆け寄るが、口は悪いは耳は遠いマンソクはソンがかまうなという言葉もまともに聞かない。ところが二人の間にさりげない心の交流が生まれる。
マンソクの家は普通の家庭で、孫のヨナは公務員。ソンは田舎かソウルででてきたものの一緒にきた恋人は姿を消しその日暮らしをしながら年老いて一人暮らし。この二人の話にソンのリアカーを預けている空き地の管理人グンポンの物語が絡む。グンポンは次々と子供たちが一人立ちし今はやや痴呆気味の妻と二人暮らし。
この三人の物語とその妻との生活、余命が後わずかになったソンとマンソクの恋。グンポンの妻への惜しみない愛情などが時にコミカルに、時にシリアスに、時にドキドキするラブストーリーとして描かれていく。
冒頭で二人が出会い、雪の日にリアカーをひくマンソクのショットのファンタジックなこと。時に懐かしい名作へのパクりもあるが、それでも全体が本当にきれいに、そしてカメラワークもやさしい動きでとらえていく。
グンポンの妻がガンであるとわかり、二人で自殺する下り。口の悪いマンソクが最後の最後のグンポンと友達になる下り、マンソクとソンの恋の展開などそこかしこにどこか老人の悲哀もちりばめられているが、それでもきらきらと輝いているのが何ともまぶしくて、どんどん胸に迫ってくる。
最後、ソンがマンソクに最期を見たくないから別れて田舎に帰るシーンは、こういう展開もあるのかとたまらなく胸が熱くなった。それでも孫のヨナに促されバイクでソンを迎えにいったマンソクが二人乗りで月夜を走るショットでエンディング。間に病院のベッドで息を引き取るマンソクのシーンが挿入される。最後まで丁寧な演出はすばらしい。
それぞれの老人の妻への想い、ソンとつきあうにも亡き妻に断るマンソクのエピソードもすばらしいが、グンポンの妻への献身もまた美しい。人生は生きていればこんなにすばらしい。そんな言葉があふれてくるような珠玉の名編でした。よかった。泣いた。最高。
「白夜」(ロベール・ブレッソン)
色彩設計の美しさ、挿入されるギターを弾く若者たちのショット、四日間のはかないラブストーリーの切なさが淡々と描かれる。赤、青、黄色などの現職が画面のいたるところにセットや通りを歩く人々の服などを通じて演出されている。
光輝く観光船がポンヌフの橋の下をくぐるシーンの幻想的なまでにモダンなショットはため息がでる。
一人の青年ジャックがヒッチハイクの車を止めるシーンに映画が始まり、ポンヌフでの第一夜として物語が始まる。一人の女性マルトが橋をまたいで今にも飛び降りそうにしている。最初は無視したが、パトカーが近づいたために、面倒が起こるよと彼女を止める。彼女は一年前にここで再会を約束した彼氏がいるという話をする。
第二夜、同じ時間ここで待ち合わせたジャックとマルト。
二人はお互いの身の上話を始める。美術学校に通う絵描きの卵のマルト。モダン絵画らしく美しい原色の色彩の絵が画面を彩る。
第三夜、第四や二人は恋に落ち、抱き合うが、約束の彼氏が登場、彼女は青年に別れをつげて彼氏と去っていく。
ひとときの夢のごとき物語を実にモダンでスタイリッシュな画面で描いていく。挿入されるギターの調べと演奏ずる若者たちのショット、夜のポンヌフの美しい光、昼の町並みの計算された色彩演出。青年のどこか憂いのある表情と彼女の陰のある視線が初々しいほどのラブストーリーとして淡々と描かれていく。
単純なのようで、きっちりと映像の美しさを堪能できる見事な名作でした。フィルムの美しさとはこういう映像を言うのだと言う典型的な作品だった気がします。初めてみた30数年前はこの美しさが理解できなかった。いい映画でした。ヴィスコンティも「白夜」を映画化していて、競作になったと思いますが、そちらを見ていないのが残念。
「恋愛だけじゃダメかしら?」
キャメロン・ディアスとジェニファー・ロペスを見るためだけに出かけたので、この程度の映画だったからといって後悔はないのだけれど、それにしてもリズム感のない品のない演出にはまいったかな?映画が動き出さないままにエンディングはあまりにもなlという感じです。
物語は単純。数組の夫婦と恋人たちが妊娠を通じてなんか絆が生まれるというか命の尊厳を感じるというか、男と女の心のつながりを再確認すというか、そんなドラマです。
映画が始まるとダンス番組のリズミカルな音楽に乗せてキャメロン・ディアスがなんとあられもないビキニ姿で腹筋キンキンのボディで踊る。軽快な音楽なのにどうも映像にテンポがないなと思いながらまぁいいかと思っていたがその後は次々とカップルが描かれていく。それがなんともぎこちないくらいにうまくない。オムニバス調なのならそれはそれで最後まで走り抜ければいいと思うけど、ラストでジェニファー・ロペスが見舞いにいくのが年上のレーサーと結婚した女性がいとこだったというとってつけたような関係を描く。
それぞれのキャラクターの描写が悪いのと整理がうまくない脚本がそれぞれのエピソードの中におもしろさが見えないのである。公園にやってくる先輩パパたちのとってつけたような登場シーンももっとおもしろくないといけないところのはずが、なぜかテンポが悪い。結局、それぞれのシーンがバラバラになってしまう。
見せ場、笑わせどころ、泣かせどころがわかるのだが、うまく結果を出していないのが本当に残念である。
軽く笑い飛ばして陽気なエンディングで育児器のなかの赤ん坊をとらえるショットでエンドタイトル。最後の最後だけがしっかりと描けているという非常にうまくないドラマ展開だった。でもいいか、目的は女優だけだから。と納得。