くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「リアル〜完全なる首長竜の日〜」「グランド・マスター」

リアル

「リアル 完全なる首長竜の日」
可もなく不可もなく、ふつうの映画でした。といって、おもしろくなかったかというと、そうでもなく、中盤で事の真相が明らかになって、さらにその奥の謎に迫っていく下りは、決して陳腐ではなくしっかりと描けていたと思います。

「このミステリーがすごい」に選ばれた原作を元に黒沢清が監督をした作品で、もしかしたら原作はもっとおもしろいのかもしれませんね。綾瀬はるか嫌いな私は、最後まで彼女が引っかかってしまってのかもしれません。

映画が始まると、主人公藤田浩市が恋人で幼なじみの和淳美との部屋で食事をするシーンに始まり、そのままタイトル、一年後になる。

漫画家である淳美は、連載に息詰まり堤防から飛び降りて自殺、意識不明になっている。藤田は彼女に接触するべく、先端医療であるセンシングを使って彼女の心の中に入っていく。グロテスクな殺人シーンが話題のサイコキラーを主人公にしたマンガを書く淳美に語りかける藤田。淳美は幼い頃に書いた首長竜の絵を探してほしいと頼む。

センシングを繰り返すうちに、藤田は現実で見知らぬ少年に出会うようになる。

果たして、淳美は快復するのか?藤田の前に現れる少年の意味は?など、謎をおいながら、CGをさりげなく駆使して描くほんのわずかに近未来の映像と、幾何学的な建物、淳美の意識の中で現れるマンガで殺された被害者のグロテスクなイメージが不思議なムードを生み出していくのだが、画面全体のスケールがとにかくこじんまりしている。

ところが中盤、センシングの途中で藤田の前から淳美が消えてしまい、次の瞬間に、実は意識不明なのは藤田で、淳美がセンシングで接触していたことがわかる。一気に覆されるストーリー展開はさりげなくもなかなかの演出で見せてくれるのだが、ここから、藤田が、酔っぱらって堤防から落ちて瀕死の状態であることがわかる。そして、二人が接するところに現れる少年が実は幼い頃に二人の前で事故で死んだモリタであることがわかる。

目の前で死んだモリオへの罪悪感を首長竜のスケッチにして二人の隠れ家に隠したことが語られ、結局、このモリオが少年の頃の藤田を嫌っていて、というか、藤田が仲良くなった淳美への想いから嫉妬していたような展開になる。そして、モリオが藤田を死への船に乗せようとするのを淳美が引き戻して、一度は心停止になった藤田が生き返り、ハッピーエンドへ・・・・。

真っ白な部屋で眠る藤田を見つめる淳美のショット。藤田の目が開き、「これからずっと一緒」という淳美のカットでエンディング。

実は藤田は蘇生したわけではなく、藤田の意識の中へ淳美が永遠に入り込んだのかという意味ありげなラストシーンである。エンドタイトルには安っぽいテーマ曲が彩るのは何とも御しがたし。

人の深層心理に入り込むというのは「インセプション」を思い出すが、それとは全く違う物語であり、スペクタクルでもなんでもない。いわゆるSFミステリーという感じで、ラストで意識の中で首長竜とたたかう藤田と淳美のスペクタクルなシーンもあるものの、全体はミステリーという形のラブストーリーである。

丁寧な展開と演出で、好感のもてる作品であり、特に映画として抜きんでているわけではないが、二時間あまり退屈することもない作品でした。


「グランド・マスター」
ウォン・カーウァイ監督が初めて望むカンフーを扱う作品で、ブルース・リーの師匠として有名なイップ・マンの物語を中心に1930年代から1950年代にかけての三人の実在の武術家を描く人間ドラマである。

格闘シーンのみならず、情景描写のシーンにもスローモーションを多用し、幻想的なくらいに美しい映像で緩やかに激動の時代を描いていく。

1936年、北部の武術家バオセンは北の武術家からグランド・マスターとして尊敬されている。雨が降りしきる夜、一人の武術家イップ・マンが大勢の相手を華麗に倒す場面をじっと見つめる。映画はここから始まる。

バオセンは自分の老いを認め、自分の跡をついで、中国武術の統一と無用な争いを避けるためにその中心となる人物を捜していた。そして、南方の武術家で人々の尊敬を集めるイップ・マンを選び、自分との対決を望んだのである。そして、南方の武術家はそれに答え、その場を用意するが、そこでは格闘ではなく、その信念の対決でバオセンはイップ・マンを認めるのである。

しかし、父を負かしたとおもったルオメイはイップ・マンに戦いを挑み、金楼で勝負をする。そのときの戦いの中でいつの間にか二人には見えない愛が芽生える。

一方、バオセンは自分の流派の後継に娘のルオメイと一番弟子のマーサンを考えていたが、マーサンはバオセンの言葉を理解できず、バオセンを殺してしまう。その復讐に燃えるルオメイは1940年、駅のホームでマーサンと対決して倒すのだが、雪の降るホームで、駆け抜ける汽車を画面の半分に描きながら華麗に舞うチャン・ツィーがとにかく美しい。

南の八極拳の使い手カミソリは、列車内でルオメイに助けられ、裏組織から足を洗い、やがて香港で弟子を集めて八極拳を広める。

日本軍の侵攻から香港の独立、中華民国の成立から内線と激動の歴史を背景に、その時その時の三人の武術家の生き様を美しい景色のシーンをファンタジックに描写しながら、時に幻想的に、時に格闘シーンを交え、さらには時代に翻弄される心理描写も映し出してみせるウォン・カーウァイ監督の手腕はさすがに見事ではある。

アクション監督であるユエン・ウーピンの演出部分とウォン・カーウァイのドラマ部分のかみ合わせも絶妙で、作品全体が緩やかに流れる店舗を生み出していて、とっても美しいドラマに仕上がっているように思います。ただ、難を言えば、カミソリのドラマ部分が希薄であること、マーサンの心理描写が弱いために、彼と絡むルオメイがちょっと軽くなってしまい、イップ・マンとのラブストーリーが作品お中心とはいえ、深みを生み出すに至らなかったのがちょっと残念。

全体に美しい映像作品に仕上がっていますが、ウォン・カーウァイ監督作品としてもっと求めたい気がしました。でもすばらしかったです。