くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ロマン・ポランスキー初めての告白」「ローズマリーの赤ち

初めての告白

ロマン・ポランスキー初めての告白」
「私の墓に入れてほしいフィルムは「戦場のピアニスト」です」というせりふで締めくくられるドキュメンタリーである。

チューリッヒ映画祭出席のため出向いたスイスで拘束され、自宅軟禁された時期にインタビューされた映像を中心に語られるロマン・ポランスキーの波乱の半生、その中心はやはりユダヤ人として迫害されていた頃の第二次大戦下の時代、そして、最愛の妻シャロン・テート惨殺事件前後のお話になる。

彼の作品を統べてみているわけではないが、大好きな監督の一人であるファンとしては、普段みないドキュメンタリーもみざるを得ない。
ほかにみる機会のない映像でもあるし、みて損のないひとときだった気がします。


ローズマリーの赤ちゃん
死ぬ前にスクリーンでみたかった映画の一本をとうとうデジタルマスター版でみることができた。

この映画を見たのはテレビの映画劇場、当然、カットもされているし、冒頭の濃厚なラブシーンなどなかったと思う。ただ、鮮明に覚えているのはラストで悪魔の赤ちゃんがオーバーラップで映るショットだが、それも、本当にみたのかどうか不確かだった。しかし、その謎も今日はっきりと確認できました。

なるほど、ホラー映画の金字塔といわれるだけの傑作でした。畳みかけていく映像編集の妙味はまさに天才的で、二時間を超えるというのに、次々と進むストーリー展開に時を忘れてしまう。それに、もしかしたらただの妊婦の不安定な心理状態による妄想かという微妙なニュアンスをきっちりと描かれている。ホラー映画によくある、さりげない伏線などをいっさい排除した、それでいて不気味に展開するカメラワークが絶妙なのです。

カメラはニューヨークの町並みを俯瞰でゆっくりととらえる。タイトルがかぶりパンニングしていって一見の古風なアパートの一室へ。ローズマリーとガイの夫婦が新居にするアパートの部屋をみている。古めかしいたたずまいの部屋を気に入った夫婦はその場で決めて、すむことに。しかし、隣の家主の部屋との壁が薄く、しきりと声が聞こえている。

チクタクという時計の効果音、細かいカットを繰り返しながら描かれる物語は否応なく緊迫感を途切れさせることはない。手前から奥をとらえる奥行きのあるショットが実に不安定な効果を生みだし、導入部分の見所である不気味な夢のシーンへと流れていく展開はすばらしい。

なにもない部屋でガイとローズマリーが愛を交わすシーン、レトロな窓枠の外に見える夜景も実に美しいが、子供を作ろうと決心した日に交わす愛の営みは、そのまえに隣人にもらったデザートの不気味さも重なって、寒気がする夢のシーン、さらに悪魔との交尾のシーンへと進む展開に、これぞポランスキーの才能がなせる見事な演出だと背筋が寒くなるのである。

そして、後半は、身ごもったローズマリーが次第に不安が募り、周りの知人たちが不幸に見舞われていくにつけ、どんどんその恐怖がエスカレートしてくる。そして、夫さえも信じられなくなったローズマリーが駆け込んだのが、当初診察を受けた医師。そして、一安心したのもつかの間、彼もまた仲間であったとわかりクライマックスへ。

逃げるローズマリーだが、おりしも陣痛が始まりそのままベッドに押さえつけられてしまう。産後、死産だったと告げられるが、信じられないローズマリーは与えられる薬を捨てて、鳴き声のする部屋に包丁を持って入っていく。そこには悪魔の下部たち、さらに夫までもが祝杯を挙げている。そして、目にした赤ん坊は獣のような目をした化け物の如しである。それはオーバーラップする画像として一瞬映し出される演出も見事。

一度は泣き叫ぶローズマリーも、母親であることの思いが恐怖を押し退けて行くラストシーンへと続く。カメラはゆっくりとファーストシーンを逆に俯瞰で離れていきエンディング。

決して、ポルダーガイストシーンもはでな怖がらせシーンもない。ただ、背後に流れるクラシック音楽や時計のチクタクという音、壁から漏れる声、忍び寄ってくるような恐怖感をあおるさりげないグッズが映画をどんどん非日常の世界へ誘っていく。

細かいカットでよけいなシーンを省いた編集手腕もすばらしく、テンポが生み出すハイクオリティなホラー映画の傑作としての完成品にただただうなるばかりである。スクリーンでみることができて本当によかった。