くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「出発」「ムーンライティング」「シャウト」

kurawan2014-10-03

「出発」
イエジー・スコリモフスキ監督の初期作品である。

ブリュッセルの町並みを舞台に、ポルシェに乗ってラリーにでることを目指して、奔走する青年の姿を、ある意味、詩的なくらいな映像を駆使して、かけ巡るように描いた秀作。

鏡や、ガラス、テクニックを駆使したカメラワークはもちろんだが、車の疾走する場面も、スピード感満点に描いていくワーキングも、尋常ならざるものがある。

主人公のアップ、ジャズのメロディ、ポルシェでラリー登録したが、そのポルシェが使えなくなり、ショールームから盗んでみたり、金持ちのマダム近づいてみたりと、思いつくままに行動する主人公が実に初々しい。演じるのはジャン=ピエール・レオーである。

冒頭で知り合った女性と、恋愛まがいのクライマックスにもつれ込んでいくが、結局、レースにはでれずに、ホテルで窓の外を見つめる主人公の顔が、スライドの燃えるフィルムのように消えてエンディング。

まさにヌーベルバーグを思わせる映像と、エネルギッシュな展開に、甘酸っぱい青春ドラマが詰め込まれているという感じの一本である。さすがに初期の作品、初々しさと若さが爆発している気がします。


「ムーンライティング」
イエジー・スコリモフスキ監督の未公開作品の一本だが、これが、相当見応えのあるサスペンスタッチの傑作だった。

物語は、ポーランドからロンドンへ不法就労で、リフォーム仕事をしにやってきた四人の男の物語で、三人の職人を引き連れてきた主人公の男が、やがて金も尽き、本国ワルシャワではクーデターが起こる中、盗みや、巧みなスーパーでの万引きを繰り返しながら、仕事を続ける様子を、ドキドキするようなサスペンスで描いていく。

今にもばれそうなムードが続く中で、間一髪で切り抜けていく主人公を演じたのは、ジェレミー・アイアンズと、なかなかの配役。

結局、仕事を終えて、帰国できるようになった時点で、本国の出来事を職人に話し、罵倒されて暗転エンディングである。

正攻法でぐいぐいと描いていくタッチは、スコリモフスキーには珍しいが、帰国する飛行機も、音信も不通になって、孤立しながらも、ひた隠しに隠して、職人に仕事をさせる下りは、かなりサスペンスフルである。

スーパーや衣料品店でのたわいのない万引きの数々、向かいの自転車を盗む下りなど、本当に小さな犯罪がちりばめられるが、どれもが、ほんのわずかなタッチの差で、ばれない。

この細かいサスペンスの積み重ねと、職人に本国の出来事を隠す緊迫感が、見事にマッチングして、極上の娯楽映画に仕上がっているのだから、これは、アイデアのおもしろさというほかない。

とはいえ、背景にあるのはポーランドの国の実状なのだから、どこか、政治的な緊迫感も漂うという1981年の時代背景も見逃せない。これはなかなかの一本でした。


「シャウト」
ちょっとシュールな映像と、不気味な物語に引き込まれる一品。その非現実的な展開に、呆気にとられながらも楽しんでしまう。

映画は一人の女性が、とある建物に駆け込んでくるところから始まる。食堂に案内されたその女性は、そこで、テーブルに寝かされている男たちを順番に見ていく。そしてタイトル。

物語は、とある精神病院、今にもクリケットの試合が始まる。スコアを頼まれたロバートは、同じく頼まれたクロスリーから、奇妙な回想話を聞かされるところから本編となる。

なぜか小屋の中にいれられたままのクロスリーは、かつて、アボリジニから教えられた呪術で、叫ぶだけで人を殺せるようになった男の物語を始める。

砂漠をふらふらと歩いている男、とある音楽家の夫婦の家、仲むつまじい音楽家夫婦、教会でオルガンを弾いた後、帰り道で、その音楽家のアンソニーは、帰り道、一人の奇妙な男クロスリーに声をかけられる。

どこか、胡散臭く、無神経なクロスリーに、押し掛けられるように昼食を招待し、そこで、自分は叫ぶことで人を殺すことができるとはなされる。

音に興味のあるアンソニーは、翌朝、砂漠でクロスリーに叫んでもらうことにし、耳栓をしてそれを体験するが、その日から、妻の行動がおかしくなり、自分も体調が悪くなる。

どうやら、クロスリーはアンソニーの妻レイチェルに興味があるようで、持っている呪術で彼女を虜にしてしまうのだ。

そして、最後にはアンソニーは追い出されるが、砂漠で、クロスリーの石を見つけ砕いてしまう。クロスリーは警察に捕まり、再び精神病院のシーンへ。

ロバートに語っているクロスリーこそ、その物語のクロスリーで、最後に叫び、周りの人間を巻き込んで、冒頭のシーンへ。飛び込んできたのはレイチェルであり、クロスリーの死体を見つけて暗転。

クリケットのシーンと、クロスリーの語る回想のシーンを交互に挿入し、さらに、独特のカメラアングルで、叫ぶことで生き物を殺す姿、さらに呪術で思いのままにレイチェルをものにする様子を演出していく。

ちょっと、シュールだが、独特の世界をイエジー・スコリモフスキは見事に映像に仕上げていく、という個性的な一本で、一種のファンタジーであるが、その怪奇な世界を堪能できる一本でした。