くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「メビウス」「ストックホルムでワルツを」

kurawan2014-12-08

メビウス
さすがにキム・ギドク監督作品、目を背ける嫌悪感の限界一歩手前まで映像が迫ってくる。これが彼の毒なのだが、その独特の感性は、さすがにすごい。

映画は、せりふが全くない。ある家族の朝の朝食のシーンから映画が始まる。トーストを食べる父、息子、そして、どこか不気味な視線を送る母。実は父は近くの雑貨店の女と不倫をしている。それを母も息子も知っているのだ。

ある夜、家に帰ってきた息子は、父が車の中で愛人とSEXしているのを目撃、同じく母もそれを知る。夜、母は思い詰めたように、廊下にある仏像の首のところのナイフをとり父のペニスを切り落とそうとするが失敗、そしてなにを思ったか、父がSEXしているのをみて、興奮し、オナニーしていた息子のペニスを切り落とす。

母は家を出ていき、父は、その罪悪感から、自らのペニスを手術で切り落とし、保存、さらに、絶頂感を味わうすべをネットで検索しする。

一方息子は学校でいじめられ、不良グループと知り合い、父の愛人を不良グループがレイプする共犯になり逮捕される。しかし、父は、体の一部を血が出るほどに擦ることで絶頂感を味わえることを知り、息子に教える。

出所してきた父と息子はなぜか、親密感を増す。しかも、体を擦るだけでなく、さらにエスカレートすると、ナイフを突き立てたりして興奮することを知り、息子は父の愛人とそういう異常なSEXをするのだ。そして、女をレイプした不良グループのリーダーのペニスを切り落とし、同じような境遇にする。

父はペニスをつなぎ会わせることができることを知り、息子に父のペニスをつなぎあわせ、実行するが、やはり勃起しない。

ところが、そこへ母が帰ってくる。しかも、母が息子に寄り添うと、なんと息子のペニスが勃起するのだ。父は息子に嫉妬し、母と息子と父の三角関係になり、最後は父は母を殺す。それをみた息子は、ピストルで自らのペニスを撃ち、夜、かつて、見知らぬ男が仏像店の仏像にライトを当てて拝んでいたのと同じことをする息子の姿でエンディング。

非常に毒々しいほどに狂気の愛の物語で、そのグロテスクな展開は、正直目を背けたくなる寸前のものである。しかし、物語の根幹にあるのは、あまりにピュアな愛の物語であり、その映像は極端にシュールである。相当な秀作と感じられるが、いかんせん、題材が毒々しすぎる。
これがキム・ギドクである。


ストックホルムでワルツを」
スウェーデンが生んだジャズシンガー、モニカ・ゼタールンドの半生を描いたミュージシャン自伝ものというやつだが、とっても素直な展開と、リズムに乗った映像、しっかりと描かれた人間ドラマとして、ちょっと見応えのある作品でした。

映画は、スウェーデンの田舎町で、電話交換手をしながらミュージシャンをしているモニカの舞台シーンに始まる。曲に会わせたタイトルの後、モニカにニューヨークに来て歌ってくれないかというオファーがくる。一人娘を両親に預け、電話交換手の仕事に休みを取り、父に反対されながら旅立つ冒頭シーンが実にうまい。このワンシーンで、モニカの現状の姿をすべて映像で見せてしまうのである。

続く、ニューヨークでの失敗から、スウェーデン語でジャズを歌うように進められ、作詞家との出会い、将来の恋人との出会い、両親との確執、娘との物語などが、モニカの成功への階段の中で描かれていく。

イギリスでの失敗、頂点に君臨していく孤独。地位を守るための自暴自棄な振る舞い、極度の疲労からくる肉体的挫折から、アメリカの世界的ピアニストビル・エヴァンズとの競演という頂点までの物語が、一つ一つきっちり、そして、ただの成功物語という単調さを排除して描かれていく。

ビル・エヴァンズとのコンサートの後、それまで反対していた父がスウェーデンからの電話で「木のてっぺんからの景色を見せてくれた」とモニカをねぎらう場面は最高。

やがて、紆余曲折の果ての結婚式の場面、かつての出会った人々が彼女の周りに集って祝福の拍手をするエンディングは美しい。

とはいえ、物語の本編となる、頂点を目指すために捨てていくモニカの姿は、さすがに、ここまでなるには捨てるべきものは捨てるべきなのだという寂しさも見えなくもない。これが、自伝映画である。いい作品だった。