くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「日本列島」

kurawan2014-12-05

東西冷戦まっただ中、世界中で不気味なほどに暗躍するスパイたち、そのなんとも陰惨たる時代が見事に映像から伝わってくる。さすがにこの手の社会ドラマは熊井啓監督は実にうまい。一歩間違えば上映中止にさえなるのでは無いかと思える描写を、何の躊躇もなく行うのだから、頭が下がる。しかし一方で、作品が非常に重くなるのは確かである。

アメリカ軍駐留地に一人の将校がアメリカからやってくる。彼は、以前日本で謎の死を遂げたリミットという軍人の友人で、その謎を調べるためにやってきたのだ。そして、この基地で通訳の仕事をする秋山にその調査を依頼する。

こうして、一人の軍人の謎の死を追い始める秋山たちの前に見えてきたのは、日本陸軍登戸研究所で行われていた偽札印刷。その印刷機を使った巨大な偽造紙幣組織の姿であった。しかも、そのバックには巨大なスパイ組織も絡んでいて、調査を進めるに従って、その関連の人物が次々と謎の死をとげ、さらに真相も分からないままに隠蔽されてしまう。

時折、恐ろしい爆音で通過する米軍機の機影がドキッとそるほどに不気味で、どうしようもない巨大な力の前で、どうしようもない、当時の日本の現状が、重々しくのしかかってくる演出が見事。

人物を下から見上げるカットの空に米軍機が飛び去る。どこからともなく不気味な外人の影が主人公たちに忍び寄る。世界でなに者が暗躍されているのか、日本国内に潜む影はなんなのか。

当時の世相を身を持って体験した人間ではないが、日本列島全体がこんな空気に包まれていたという現状が切々と伝わり、一方で高度経済成長と映画産業黄金期のにぎやかな姿の裏にある不気味さが痛烈な監督のメッセージとして伝わってくるのです。

結局、主人公秋山も沖縄への調査に旅立ったまま、死体となって発見され、すべての謎は解決しないままに映画が終わる。そのラストシーンがさらに不気味に迫ってくる。余りにたくさんの登場人物に、一瞬混乱するのですが、一本筋の通ったストーリーの組立で、絶対にその主旨はぶれない。社会ドラマの傑作ですね。すばらしいです。