「アゲイン 28年目の甲子園」
重松清の原作もいいのだと思うが、物語のエッセンスを決して失うこととなく、的を射た脚本に仕上げた大森寿美男の脚本がみごと。さらに、演出も務めた大森寿美男の手腕も、並ではないと感じてしまう。
と、書いているが、とにかく波瑠ちゃんがとってもかわいい。彼女はスクリーンにでたときに輝くな、といつも思う。その意味ではスクリーン映えするのかもしれない。
映画は、高校時代にふとした事件で地区決勝戦にでることができなくなったかつての川越高校球児の一人坂町のところに、マスターズ甲子園の事務局を手伝う神戸大学の学生、戸沢美枝が訪ねてくるところから始まる。
この戸沢美枝は、川越高校の事件の原因になった男の娘だという設定を行い、物語に深みを与えていく。
この手のスポーツ映画は、試合の場面で最高潮を迎えるという、ある意味、ずるい設定をすることで、感動を呼ぶパターンが多いが、この作品は、その部分を脇に配置し、しっかりとその前後で見せてくれるから、脚本がうまいといったのです。
もちろん、物語の骨幹は、地区大会へ出場し、優勝し、甲子園での試合をクライマックスに持っていきますが、それ以外の場面、たとえば、前半の宴会の場面で、戸沢美枝の素性がOBたちにばれる下り、元マネージャーで、かつての事件の関係者の立原祐子が試合の後でOBの目で真相を語るシーン、などなど、周辺に配置されたエピソードで観客の心を引きつけるところです。
実際、試合のシーンより、様々な枝葉に配置されたエピソードに胸が熱くなるのだから、もう涙もろくなったものだと思ってしまうのです。
いくら、冷静にみようと思っても、何度も素直な感動に涙ぐんでいる自分をみる。その意味で、とってもいいヒューマンドラマの秀作だったと思います。いい映画でした。
「氷壁」
井上靖の名作を新藤兼人が脚本を書き、増村保造が監督をした大ヒット作。
増村保造監督得意の、強烈なクローズアップも、胸焼けするような女の情念もそれほど伝わらないし、新藤兼人らしい、つっぱなしたつめたさもそれほど見えない。
ある意味、普通の不倫物語に見える気がするが、時折、増村保造らしい、斜めの構図などはかいま見られるから、やはり増村監督作品と呼べる一本です。
魚津が、山登りから帰ってきたところから映画が始まり、魚津の親友小坂と会うと、そこに美しい人妻八代が現れる。
かなり荒っぽい展開で進んでいく物語が、ちょっと雑なきがするのですが、それとなくストーリーも理解されてきて、八代とつきあっている小坂が、忘れるために魚津と山に行き、ザイルが切れて死んでしまう。
このザイルを作っている会社が、八代の夫の会社というつながりと、ザイルに欠点があったのかというサスペンスも絡んでくるが、そこに、小坂の妹が魚津に結婚を申し込むという下りがさらに加わる。
すべてを精算し、小坂の妹かおると結婚を決意した魚津は、単身山に出かけるが、そこで雪崩に遭って死んでしまってエンディング。
ストーリー自体が分かりやすいためにヒットしたのだろう。増村保造の作品としてはそれほどのものではなかったきがします。