「FEAR X フィアー・エックス」
「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レブン監督作品。
妻を殺された主人公ハリーが、膨大な防犯ビデオをチェックして犯人を追いつめていく物語だが、現実と悪夢が入り乱れ、次第に映像が交錯していく。さすがに、この監督の作品だけあって、こりにこった映像演出が施され、若干、混乱の一歩手前になっている。
映画はカーテンの隙間から外をのぞくカットに始まる。外は雪が降っていて、一人の女性、つまり主人公ハリーの妻がたっている。手がフレームインして、カーテンを開けるハリーの姿となってオープニング。さすがに美しい。
ショッピングセンターで警備をするハリーは、妻を殺害され、その犯人を追うために、防犯ビデオを手に入れて、毎夜チェックしている。
眠れば、エレベーターの中に飛び込むカットや、ホテルの廊下の真っ赤なランプが挿入され、その悪夢と現実が繰り返されていく。そして、時折、シュールな映像も組み合わせてくるので、これはもう、この監督ならではの映像演出だと思わせる。
ある日、警官から呼び出され、犯人とおぼしき人物のカメラ映像を見せられる。
そして、ハリーは向かいの家に引っ越すことを決めるが、そこはすでに団体契約があるということ。それでもハリーはその家に忍び込み、一枚の写真ネガを入手、現像し、そこに写っているレストランから、その地に足を運び、その写真の女を捜す。
カットが変わり、一人の優秀な警官ピーターが表彰される場面へ。彼は汚職警官を摘発しているがその課程で、一般市民、つまりハリーの妻を撃ち殺したらしい展開を見せる。
やがて、ハリーが自分を捜していると知ったピーターはハリーを呼び出し、ピストルで撃つが、とどめはさせない。カットが変わってベッドで横たわるハリーの周りに警官がいて、ことの次第を聞くがハリーは、結局、犯人が警官なら、いっても仕方ないと、真実を話さず、やがて、自分の車で去っていってエンディング。
様々なところに意味ありげなシーンがちりばめられていて、エンドクレジットでもビデオ映像が挿入され、片時も目を離せないが、結局、ハリーの妻は警官に誤って撃ち殺されたのだろうか?という理解。
これが正しいのか、かなり不安だが、ハリーが現実と夢の中の出来事に混乱しているほどには見えないから、これでいいかと思う。もし、違っているなら指摘してほしいです。
映像の組立やこり方のおもしろさは、この監督ならではの魅力で、それを十分満喫できる。その意味では隠れた彼の作品を見れたのはよかったと思いました。
「カフェ・ド・フロール」
確かに、作り込んだストーリーであるが、クライマックスの真相を明らかにする手段が、霊媒士というのはいけませんね。この監督なら映像で見せられると思うのですが、とにかく、ここが最大の残念です。
それに、ストーリーの組立が、きめ細かに組みすぎてジグソーパズルのようになっている。かまわないと思いますが、どこに焦点があるのか、かえって、ずれてしまった気がする。監督はジャン=マルク・ヴァレ。
映画は2011年モントリオールに始まる。愛する恋人ローズとラブラブの日々の主人公アントワーヌ。最後まで見て気がつくが、主人公と紹介するから、ある意味このあとがすべてばればれになっているような。
かわいい娘二人となかむつまじく暮らすアントワーヌには、別れた妻キャロルがいるが、キャロルとアントワーヌは学生時代に熱愛の末に結ばれたカップルで、そのシーンも繰り返され、キャロルが未だにアントワーヌへの思いを捨て切れていない。
一見、よくある導入部だが、画面は1969年のパリに飛ぶ。そこでジャクリーヌという女性が、一人の男の子ロランを産み落とすがその子はダウン症で、そのため夫は去ってシングルマザーになる。
ジャクリーヌはロランを普通の人間として育てることに生き甲斐を見つけ奔走するが、ロランは学校で一人のダウン症の少女ヂュボアと出会う。
この二つの物語が交互に描かれ、キャロルが何度も夢に見る車で事故を起こす場面や、ロランとデュボアの離れたくないとわめくわがままシーンが、次第に物語の真相に近づいていく展開は、ちょっとしたものである。
だいたい、映像を見ていて、それとなくわかってくるのに、わざわざ、キャロルが霊媒士を訪ねる下りがちょっとよくないし、その真相をキャロルの親友に聞かせ、すべて明らかになるクライマックスは、ちょっとくどくないだろうか。
結局、キャロルの前世はアントワーヌの母親でアントワーヌとロランは双子の輪廻でつながっていて、ローズはデュボアの生まれ変わりで、アントワーヌは、前世のロランとデュボアとの恋を成就するために、なにがあってもローズと結ばれる運命にあることを知る。
ジャクリーヌはロランとデュボアの恋を阻止するために、ロランを乗せて車で事故を起こして断とうとしたことが、キャロルの夢にでていることが明らかになる。
そして、すべてを知ったキャロルはアントワーヌとローズを祝福するというラストシーンとなるが、このあたりがどうもよくないなと思えるのです。
導入部から前半、二つの物語をカフェ・ド・フロールの曲がつなぎ、すばらしいリズムを生み出していくのに、中盤から後半にいくにつれて、微妙にテンポが崩れてくる気がする。確かに優れた作品だし、見事な構成のドラマだと思いますが、欲を言うと、もうちょっともったいないなぁという感じでした。