くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「東京おにぎり娘」「家庭の事情」「閉店時間」

kurawan2015-08-14

「東京おにぎり娘」
楽しい人情ドラマの秀作、どうして、今こういう映画が作れなくなったのだろう。軽いタッチのストーリー展開と、軽い会話劇の妙味、心のしんみり染み渡る人のぬくもり。本当に楽しかった。監督は田中重雄。

映画は、主人公の若尾文子のナレーションから始まる。しゃれっぽい導入部から、物語は、その地で30年の老舗洋装店へ。この店の娘が主人公で、今やほとんどお客さんも来ないので、娘はおにぎり屋を始めることにする。

恋があり、笑いがあり、絶妙に飛び込んでくる伊藤雄之助名脇役、とにかく、豊富な名優たちが、入れ替わり物語に彩りを与えてくるから、もう嬉しくなってきます。

父の昔の女の娘が登場したり、世話焼きのおばさん、主人公をマドンナのように慕う幼馴染など、多彩な登場人物も嬉しくなる。

大人の洒落た人情喜劇という色合い。何度も書くが、なぜいま、こんな映画が撮れなくなったのだろうか。


「家庭の事情」
この映画も楽しかった。四人の姉妹と一人の父親が暮らす平凡な家庭を舞台に繰り広げられるドラマで、軽快な会話と展開にどんどん物語に引き込まれてしまいました。

監督は吉村公三郎、脚本は新藤兼人です。

通勤ラッシュの頃の電車の場面から幕を開け、この家庭の父親が定年退職するところから物語が始まる。四人の姉妹が、退職祝いを行うアットホームな場面、しかし四人の姉妹のうち2人は胡散臭い恋愛をしている。

退職金を均等に配るという案を出した父親は、いきなり、翌日、行きつけの小料理屋の女にあてにされ、それを断って、痛い目にあう。娘の付き合っている男や会社の同僚などが、配られた退職金に群がってくるあたり、まさに新藤兼人の世界観である。

しかし、それをきっかけに、それぞれが目を覚まし、新しい恋に向かい、それぞれがそれぞれに幸せの第一歩に踏み込んで映画が終わる。

とにかく、登場人物それぞれが大人であり、おそらく、今この映画が出てきたら、ずば抜けた完成度に見えるのだから、当時のクオリティの高さを伺える一本。

いかにも軽い親父を演じる山村総も楽しいし、お節介で強引に目当ての女性にアタックする若者たちの姿も心地よい爽快感がある。それに、女性達がとにかく強く生きている。いや、この辺は現代と同じかもしれません。

いずれにせよ、大人のドラマであり、安心して楽しめる映画でした。


閉店時間
有吉佐和子原作、天才白坂依志夫脚本なのだが、なんとも、演出が醜い作品でした。特に女性の描き方が実に雑というか、醜悪なのです。これは監督井上梅次の色なのかもしれませんが、さすがにこれはいただけなかった。

映画はデパートガール達の恋の物語で、今で言う女子トークのシーンの連続です。まだまだ女性蔑視が日常化し、封建的な見方をする男もまだまだ普通に存在していた時代なのですが、すでに製作年度は1962年なのですから、やや時代遅れの感がないとも言えない。

そうこういっても、私はこの時代はまだガキなのだから、実際はこの映画の雰囲気が普通だったのかもしれません。

しかし、モダンな色合いの舞台にもかかわらず、しゃれっ気が全然見えないし、演出のテンポが悪いのか、笑えない。

もちろん、しっかりした役者さんが揃っているのですが、いまひとつのめり込めない映画でした。