ハイレベルな映画というのは、そのワンシーンワンシーン、俳優の一挙手一動をみているだけでも飽きることがない。そういう作品にまたであいました。
歌舞伎十八番「鳴神」をもとに新藤兼人が脚本を書き吉村公三郎が監督をした作品で、縦、横、斜めの立体的な線を利用した奥の深い画面づくりで、独特の様式美の画面を演出していきます。
開巻、歌舞伎の演舞場が真正面に写され、雑踏の上からカメラがゆっくりとその中へ。舞台では「鳴神」の序盤が上演されている。花道から百姓たちが大勢入ってきて、日照りが続くから何とかしてくれと朝廷に直訴しにきたのである。それを追い払おうと武者が立ちはだかり、カメラは一気に外にでて、真上から百姓を追い払う武者のシーンへ。
朝廷に男の子が産まれるように法力で願を掛け、成就したにも関わらず、約束の戒壇堂の建立をしない朝廷に対し、龍神を封じ込めて、雨を降らせないように鳴神上人が法力をかけたのである。
それを解くためにくものたえま姫が鳴神上人のところに乗り込み、酒に酔わせて、見事法力を破り、雨をもたらすというのが物語の本筋。法力を破られ、滝壺から竜が上るシーンはちゃちとはいえ、題名の由来になるスペクタクルシーンです。
たわいのない話であるが、せりふの所々や動きの中に歌舞伎の様式の世界を織り込み、冒頭にも書いた奥の深い画面づくりで、観客をスクリーンに釘付けにします。
クライマックス、だまされたと知った鳴神上人が暴れ回る舞台のシーンへと戻り、そしてエンディング。
物語構成のおもしろさのみならず、ダイナミックなカメラワークで、豪快な展開にした新藤兼人の脚本と吉村公三郎の演出のコラボが見事に成功した一本で、どのシーンも決して退屈しない迫力がみなぎっています。この監督の作品の中ではそれほどの傑作に入らないかもしれませんが、並の映画ではないことは確かで、見応え十分な一本でした。