くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ただひとりの父親」「ロマンス」

kurawan2015-09-04

「ただひとりの父親」
ハートウォーミングな物語というのがぴったりの、とっても素敵で心温まる映画でした。監督はルカ・ルティーニという人です。

映画はある病院の皮膚科の手術室に始まります。執刀するのはこの映画の主人公カルロ。彼の妻は、子供を産む時に死んでしまい、カルロは10ヶ月になる娘のソフィアを育てながら生活をしている。

そんな彼がある朝、ジョギングをしていたひとりの女性カミーユと知り合う。たまたま、娘の世話をお願いしていた両親がヴァカンスに出かけることになり、カミーユにソフィアを預けることにする。

と物語は、このカルロとカミーユのラブストーリーへと発展していくのがセオリーだが、そう単純に進まない。カルロにつきまとう女性がやたらおしゃべりで、猫を飼っていて、カルロは、彼女と関わるたびに失敗をしてしまうというエピソードが挿入される。このエピソードの数々は必要だろうかと思うが、作品全体に軽いタッチのリズムを作る上では大切なのである。

というのは、カルロは亡くした妻への思いが常に消えていない。それは、愛情とかそういうものではなく、すでにソフィアがお腹に出来た時には別居状態に近く、それでもカルロは妻に子供を産むことを望んだ。結果、妻を死なせてしまったという後悔の念があるのである。

湿っぽくなる部分を、ちょっとふざけたようなエピソードをちりばめることで軽いタッチで展開するストーリー展開が実にうまい。カミーユはいつの間にかカルロに惹かれている風だが、カルロには常に妻の面影があり、ソフィアにもその姿を認めるのであと一歩近づけない。

この微妙な展開が平凡なラブストーリーではなく、カルロのソフィアへの思い、亡き妻への思いとなって、とっても暖かい映画に仕上がっているのです。

映画は、海岸でソフィアを抱きながら微笑ましくはしゃぐカルロのシーンでエンディングになります。もちろん、カミーユとの未来が垣間見られますが、それは余韻として残しておく。これが、この作品が良質の一本になった所以だと思います。あったかい映画でした。


「ロマンス」
いいなぁ、こういう映画は大好きです。派手さはないけど、出て来る人たちがとっても優しいし、とってもチャーミング。監督はタナダ ユキです。

物語は、よくあるストーリーでよくあるエピソードの積み重ねなのですが、所々に挿入されるタナダ ユキの感性によるカット、ショットが物語にいい空気を吹き込んでくれるのです。特に大島優子の相手役をした大倉孝二がとってもよくって、彼の存在で映画が倍楽しくなっている気がします。

特急のロマンスカーの車内販売をしている主人公鉢子のカットから映画が始まる。社内でも成績の良い彼女と、いかにもどんくさい同僚のエピソードをさらりと流し、車内で、映画プロデューサーの桜庭との出会いへと流れていきます。

鉢子は高校時代に離れ離れになった母がいて、男付きの母が大嫌いな鉢子は、母からの手紙も破り捨ててしまう。それをたまたま読んだ桜庭が鉢子を引き連れて母を探すというのが本編。

過去の鉢子と母のエピソードや幼い日々家族との楽しいエピソードをを挿入、桜庭とのコミカルな絡みと交互に繰り返すというテンポの良さでストーリーを運んでいきます。

一方、桜庭も映画製作で借金を作り、どうしようもなくなっている。

結局、鉢子は母に会えなかったまま、やがて、何かをつかんだようなさりげない別れをする。

別に愛情が起こるわけでもなく、いや大倉孝二大島優子では起こりようがないという配役もうまい。

教訓じみて、二人は前向きに進むぞというあてつけがましさもなく、さりげなく別れ別れになっていく。桜庭が心配した母の自殺も、再び車内販売をしている鉢子の目に、男とはしゃぐ母らしい影を見つけ、振り返ったところでカットエンディング。このラストも清々しい。

見終わって、とっても気持ちのいい映画でした。