「エデン/EDEN」
ほとんど知識のないフレンチハウス黎明期を描いた作品で、人気DJに上り詰めていくひとりの若者ポールを通じて、当時の音楽界を映像の感性で綴るという手法でスクリーンに映し出していきます。
監督はミア・ハンセン=ラブです。
1990年代のパリ、大学生のポールが友人とDJデュオを結成するところから映画が始まります。
あとは次々と時代の流れを駆け抜けながら、ポールが人気の頂点に上り詰め、恋とドラッグに溺れ、やがて没落して、元の若者になってしまうまでを細かいドキュメント風のカメラタッチで描いていく。
エピソードの積み重ねと時代時代の出来事を挿入させたストーリー展開は面白いのですが、いかんせん、ほとんど知識がないので、入り込めない部分がある。しかも、主人公のポールの顔立ちが周辺の若者と似通っているために前半部分混乱してしまった。
ただ、映像の雰囲気は新鮮で若々しいし、活気に満ちているので、その意味で、見応えもないわけではない。ただ、入り込めないために眠かった。
「夏をゆく人々」
カンヌ映画祭グランプリ受賞の話題作。監督はイタリアの新鋭アリーチェ・ロリヴァケルという人である。
真っ暗な画面に車の明かりが灯るシーンから映画が始まる。カットが変わり、幼い姉妹がベッドに寝ているシーンへ。イタリア中部のトスカーナで昔ながらの養蜂業を営む一家が物語の舞台である。
四人姉妹の長女ジェルソミーナは父親ヴォルフガングの教育で、ベテランの養蜂家に育ったが、年頃でもあり、父の姿にの若干の反抗心と外に出たいという乙女心が芽生えている。
そんな村にテレビの撮影がやってきて、そのキャスターに憧れるジェルソミーナ。さらに、その番組「ふしぎの国」のコンクールに出て、自家の蜂蜜を売り込もうと持ちかけるが、頑なに父が反対。
そんな折、ひとりの少年マリチェクを預かることになり、この家族に僅かながらの波風が立ち始める。
とにかく、真面目な映像で徹底的に語っていく前半から中盤が非常に真摯な作品である。その静かな演出がかえって揺れ動くジェルソミーナの心の姿を浮かび上がらせ、さらに、ほんの些細な波風が非常に大きく見えるのである。
ジェルソミーナは父に黙ってコンクールに申し込み、家族はテレビ番組に出るために離れ小島の旧墓地に出向く。結局、コンクールで優勝できなかったが、マルチェクが脱走してしまう。
一方、それに先立ち、ヴォルフガングは少年を世話した謝礼金でなんとラクダを買うというエピソードも挿入される。これがなんとも映画をクライマックスへと動かすのだ。
ジェルソミーナは、実はマルチェクがいる場所を知っていて、ひとりボードを漕いで島に渡る。そしてマルチェクと戯れたあと戻ってくるが、なぜか家族は浜辺で寝ている。帰ってきたジェルソミーナを優しく迎え入れ、カメラはゆっくりとラクダから海岸、そして戻ると、誰もいない。暗転エンディング。
一夏の夢、幻想であったかのごときラストシーンに心が揺さぶられる一本で、解説にもあるようにフェリー二作品へのオマージュがちりばめられている。
不思議な感動に包まれる映画でした。