くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ローマに消えた男」「ハッピーエンドの選び方」

kurawan2015-12-02

「ローマに消えた男」
これは良かった。見事なストーリー構成に仕上がった傑作。しかも、展開のテンポも抜群で、気がつくとラストシーンでした。監督、脚本、原作はロベルト・アンドーです。

開巻、秘書のアンドレアを率いて国内最大の野党を率いるエンリコが颯爽と議員会館へ入場してくる場面に始まる。この作品、カメラワークが抜群で、捉える場面の一つ一つがそのシーンの空気を見事に表現しているのである。

支持率低迷にあえぐエンリコは、或る日突然、アンドレアたちの前から姿を消す。混乱するアンドレアたちだが、偶然、彼の双子の兄弟ジョヴァンニと出会う。困窮する状況を説明するため、カフェでアンドレアとジョヴァンニが話していたが、ちょっとアンドレアが席を離れた隙に、ジャーナリストがジョヴァンニをエンリコと間違えて、インタビューを始める。ところが、ウィットの効いた見事な答弁でジョヴァンニはジャーナリストに答弁、そして、翌日の新聞で、大反響を呼ぶ。

その姿に、アンドレアはジョヴァンニはをしばらくの替え玉として、ふるまってくれるように依頼する。

一方のエンリコは、かつての恋人ダニエルの基に身を寄せていた。若き日の叶わぬ恋を再度味わいながら、一方で、ジョヴァンニの見事な姿を見つめるエンリコ。

物語はこの二人の姿を交互に捉えながら、的確な言葉や演説で、人々を魅了していくジョヴァンニの姿の爽快感と、切ないほどの思いを胸に湧き上がらせていくエンリコの姿を描いていく。

その二つには、それぞれがそれぞれに想いを寄せる情熱の一点が見え隠れするようで、次第にエンリコもジョヴァンニも、共通する何か一つの光にたどり着いていくように思える。

そして、終盤、ダニエルの基から突然姿を消すエンリコ。知らせを聞いてアンドレアはその姿を探すが、諦めて官邸に戻ると、そこには、エンリコの姿があった。しかし、ドアを出て隙間からエンリコを除いたアンドレは、ジョヴァンニが口ずさんでいた歌をエンリコの口から漏れているのを聞く。果たして、目の前の人物はジョヴァンニなのか、エンリコなのか、映画はそこで終わる。

脚本が実に見事で、ジョヴァンニの語る言葉の一つ一つが実に素晴らしい。一方で、どちらかというと、うつに近いような存在感で見せるエンリコの瞳には、若々しいほどの初々しさが蘇ってくる様子が見事なカメラでとらえられていく。

もちろん、演じたトニ・セルヴィロの名演技が生み出す魅力でもあるが、真上から捉える階段シーンのカット、水中で泳いでいたら、スーツを着たアンドレが潜ってきたりするシュールなカットなども、ストーリーを引き立たせる。

ラストシーンは、なんとも言えない、込み上がってくる胸の熱さを感じざるをえなかった。素晴らしかったです。


「ハッピーエンドの選び方」
重いテーマですが、非常に軽いタッチのコミカルなシーンと、ミュージカル風の演出を加え、それでいて、中心になる話の本筋をぶれないように展開する流れは、かなりのクオリティを感じさせてくれました。いい映画でした。監督はシャロン・マイモンとタル・グラニットです。

イスラエルのとある老人ホームから映画が始まる。主人公のヨヘスケルは発明好きで、ユニークな発想の持ち主。今日も、延命治療する友人の電話の相手になり、神様になって励ましている。

そんなある日、延命治療している親友から、もう楽になりたいという願いが。そこへたまたま、かつての尊厳死幇助ををするために用意した薬品が残っていると言われ、死を望む本人の意思でその薬が流れる装置を作ることに。そして、友人たち四人が見守る中、ビデオに最後の言葉を残した親友はスイッチを入れる。

殺人に変わりはなく、この最初の行動の時に、皆が車の中や、様々なところで歌を歌い始める。死を迎える人も歌を歌うという演出で、物語の中盤を描く。この辺り、かなりの映画通が作った感じがするのだ。

一方でヨヘスケルの妻は日に日に認知症が進み、死を望んでいるのがひしひしと伝わり、周りの友人たちも、ヨヘスケルに、あの装置を使うようにさりげなく伝えるが、ヨヘスケルは、さすがにできない。しかし、ある日、妻は薬を大量に飲んで自殺未遂をしたことから、ヨヘスケルは装置を使うことを決意し、友人の見守る中、最後のビデオが周り暗転、エンディング。

殺人幇助で、捕まるべき常識的な展開を排除し、コミカルな中に、尊厳死のテーマを盛り込んだ作り方は見事である。ストーリー展開のリズムも的確で、手際よく、ラストに向かって、ヨヘスケルの妻の物語に集約させる手腕もうまい。映画として、かなりのクオリティに思えました。いい映画でした。