くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「聖の青春」

kurawan2016-11-22

「聖の青春」
思っていたよりいい映画でした。ドラマ性といい、見せ場の作り方といい、さりげない演出なのですが、工夫が見られるとっても真面目に作られた作品だった気がします。もちろん、主演をした松山ケンイチの意気込み、対する東出昌大の気力が画面を牽引したという感じでしょうか。監督は森義隆です。

スーツを着た青年が公園の端で倒れているところから映画が始まる。主人公村山聖であるが、子供の頃から腎臓ネフローゼで、体が弱いのだ。これから将棋の対局に向かうところで倒れたようで、下宿のおじさんに助けられ、将棋会館へ。

こうして、大阪下町で将棋に打ち込み、ひたすら名人を目指した主人公村山聖の物語が幕を開ける。

彼は子供の頃、腎臓ネフローゼを発症、その入院した病室で将棋と出会う。

東京には破竹の勢いで勝ち進む羽生善治が存在し、ときは若手棋士による世代交代の時代を迎えていた。そして大阪には、村山聖が存在していたのである。なぜか大阪の偉人はやたら小汚いのは昔も今も変わらない。まぁ、実在の人物なのだから仕方ないけれど。

物語は、この村山聖がやがて、腎臓ガンが見つかり、その中で、大局をこなし、時に羽生善治と互角の勝負を繰り返しながら、共に、未来を語り合うまでの展開が描かれる。

ガン手術の後、羽生善治との最後の対局がクライマックスとなり、後一手で村山の勝利が決まったと見守る友人たちの前で、村山の体力の限界から、思わず駒を落とし、それが指し手とみなされ敗北、その五ヶ月後に命が尽きて映画は終わる。

こういう人物がいたことさえ、正直、知らない。大阪の人間であり、つい20年前の出来事なのだ。

役作りのために20キロ増量した松山ケンイチの役者魂とそれに応えた東出昌大の対局シーンが実に鬼気迫る緊張感として描かれている。じっと将棋盤を見つめているというより、時に体をねじり、時に、落ち着かなげに頭をかきむしる。そして、いたたまれなくなり手洗いに立つシーンなど、さりげない演出なのに、伝わる緊張感が半端ではない。これがプロの演出だなと思う。

もちろん、病魔に侵され、悲劇の主人公という構図なのだが、「もし子供の頃、この病気にならなければ、将棋をしなかったし、羽生さんと出会うこともなかった」という森山のセリフが実に印象的。

普通の娯楽作品ですが、良質の一本という好感度溢れる映画でした。