「弁護人」
わずか30年ほど前まで、韓国は軍事政権下だった。誰もがそれを忘れている。当然日本人である私たちは興味があるわけではない。物語のテーマはそこなのだが、映画としても、しっかり描かれた法廷劇に仕上がっています。若干、本題に入るまでの前置きが長い気がしなくもありませんが、名優ソン・ガンホの演技力が引っ張って行くというべきでしょう。監督はヤン・ウソクです。
高卒のみで弁護士になった主人公のウソクは、金儲けのためにまだ手をつけている弁護士が少ない不動産登記の仕事を始める。名刺を配りまくり、手段を選ばず宣伝をして、商売は繁盛する。しかし苦学をしていた7年前、食事の世話になった食堂への恩を忘れず、いつもそこで食事をしていた。
思い出のアパートも手に入れ、順風満帆に弁護士業を営んでいたが、ある日、行きつけの食堂の息子ジヌが行方不明になる。最初は気にかけなかったウソクだが、母親に頼まれて面会に行き、そこでジヌが見るも無残な拷問を受けている跡を見るにつけ、彼の弁護をすることにする。
時の韓国は軍事政権下だった。政権安定を図るため、アカと判断する人々を、ちゃんとした証拠もなく逮捕、拷問し、罪をかぶせる恐怖政治を行なっていたのだ。
その現実を見たウソクは、多方面からの圧力をはねのけて必死で弁護をする。最初の陳述シーンで、ほとんどワンカットでカメラが動くシーンはかなりの緊迫感がただよう。このシーンを見ただけでも、見た甲斐があるというほどの出来栄えだった。
しかし裁判は検察側に有利にすすんで行く。しかし、行き詰まった時、拷問に参加していた軍医の証言を得ることになり、一気に逆転。しかし、さらに上をいく軍部の力で、結局、無罪は勝ち取れず、2年後の仮釈放という条件で折り合うことになる。
これを機に、ウソクは国家保安法に立ち向かう弁護士として行動を起こすようになる。
1987年、民衆を扇動したとしてウソクは逮捕され法廷に立つが、彼の弁護をなんと99名の弁護士が買ってでる。こうして映画は終わるが、わずか、20年前にようやく現在の韓国に近い国になったという現実を目の当たりにし、一方、映画としての真正面から向き合った姿勢の迫力といい、なかなか見ごたえのある充実したひと時を過ごせる映画でした。
「エブリバディ・ウォンツ・サム!!世界はボクらの手の中に」 映像作りのリズム感をその感性で描くことができる監督が作るとこうなる。しかも、内容が、薄っぺらい流れにならず、ちゃんと見えない知性を感じさせてくれる。これが映画です。監督はリチャード・リンクレイター。さすがこれが才能ですね。
映画は、野球推薦で大学に入学したジェイクが、野球部の寮入り、新学期が始まるまでの三日間を、みずみずしい感性で描いていくという全くたわいのない話。なのに、冒頭、車で疾走するジェイクの背後にリズミカルな1980年代の曲が流れ、あとは、どこで曲が入ったのか、映像がリズミカルに飛び回っていて境目がないほどに見事にコラボレーションしてたわいないエピソードが続く。
ほとんどが、ガールハント、つまりナンパの話に尽きるのですが、その中に散りばめられる、大学生という知性がちらほら見え隠れする演出が見事。
しかも、野球選抜だという別格の存在感も主人公以外のキャストもちゃんと描き切るからうまい。
前半の最初で、さりげなくジェイクが認める一人の女の子に、終盤で連絡を取り、スプリットスクリーンで電話の会話をしてゴールイン。このさりげないストーリーをちゃんと核として映画全体が描かれていることに、最後にやっと気づかされるうまさも唸ってしまう。
全編に流れる音楽と、そのリズムにのっていく映像、そして、そのテンポに昇華されていくストーリー。これはもう才能という他ありません。これがリチャード・リンクレイターの色です。みずみずしい青春映画の1ページを大人の映画として作るとこうなる。素晴らしかった。