くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「君はひとりじゃない」「ビニー/信じる男」

kurawan2017-07-27

「君はひとりじゃない」
一見、どいう方向に進んで行くのだろうとはぐらかされているうちに本来のメッセージが全くぶれていないことに気づかされるという、映像の効果を最大限に使ったなかなかの演出がひかる一本、見事でした。ベルリン映画祭銀熊賞受賞のポーランド映画です。監督はマウゴシュカ・シュモフシュカというひとで、本国では評価されていますが、日本では初公開となります。

検察官のヤヌシュが車を降り、木々を抜けて行くとそこに首吊り死体がある。その検視を終えて刑事たちと話をしていると、おろしたはずの死体が普通に起き上がり歩き去っていってタイトル。まず、え?、と思わせるオープニング。

ヤヌシュはひとり娘オルガと暮らしてが、どうもオルガの様子がおかしい。妙な言動をするかと思うと、食べたものを吐いていたりしている。

ヤヌシュが呼び出された事件現場ではトイレで赤ん坊を産み落とし殺害した凄惨な現場があり、若い検察官は近づけない。それを物ともせず検分するヤヌシュ。

帰ってみれば鍵をかけてトイレで倒れているオルガ。

一人の女性アナがなにやら霊能力者らしく、無心に文章を書いている。降霊して、死者のメッセージを書き留めているらしい。

ヤヌシュはオルガをセラピストの病院へ預ける。そこのセラピストの一人がアナで、なにやら独特の治療を患者たちに施しているが、病院長はものすごい差別主義者でアナのことを蔑んでいる。アナは8年前に子供を亡くし、それ以来霊能力が身についたのだという。

病院でアナはヤヌシュに会い、一目で、彼のそばに亡くなった奥さんがメッセージを待っていると告げる。

しかも、墓地が水道管の破裂で水浸しになっているのを見抜いたりもする。
霊など信じていないヤヌシュも次第にアナを信じ始め、アナの言う通りにて紙を引き出しに入れて、妻からのメッセージを期待したりもするが、当然なにも書かれていないことを知り、自分に呆れるのだ。

ヤヌシュはオルガを退院させ自宅で暮らそうと決めるが、オルガを引き取った日に引き出しの手紙に文章が書かれているのを見つける。しかも二人しかわからないことなのである。そこでヤヌシュはアナを呼び、降霊会をすることにする。しかし、実は手紙を書いたのはオルガだと告白される

三人でテーブルを囲み、手をつないでじっと耳をひそめる。しかし、妻の声は聞こえてこない。一夜が明けると明け方、アナはいびきをかいて眠っていた。それを見たヤヌシュとオルガはお互い目を合わせて明るく笑う。

二人が立ち直った瞬間であるが、カメラはゆっくりとカメラの家の外の窓から見つめるような視点になる。まるで、亡き妻がじっと見守っているかのように。
言葉で伝えるより、こういう形で家族の再生を目論んだ妻の仕業だったのかもしれない。うまいとしか言いようのないラストシーンに圧倒されてしまった

一見、どう言う方向に進むのか、まるでオカルト映画のごとき展開へ進むかと思えば、一瞬でヒューマンドラマとして締めくくる、この組み立てのうまさが見事なのである。これが映画の描き方だと思う。


ビニー/信じる男
スポーツものというのはラストで感動して然るべしというものなので、素直に見て素直に感銘を受けて感動できればそれでし良し。今回の話は交通事故で再起不能になった元チャンピオンが不屈の闘志で復活して返り咲く話なのだから感動して当然。だからよかった。素直に拍手できる映画でした。監督はベニー・ヤング。

主人公ビニーがこれから計量に向かうために必死で汗を流しているシーンから映画が始まる。そして見事パスして試合。しかし、思ったような結果にならず、半ば首をマネージャーから言い渡される。しかし彼はトレーナーのケビンのもとを訪れ、なんとかトレーニングを続け、重量をベスト状態に2階級アップし、タイトル戦に挑戦、見事チャンピオンとなる。

しかし、たまたま友人と新車の運転に出たところで交通事故にあい、首を骨折、絶対安静と固定手術をうけ、頭と首をボルトで止められた金具を装着することになる。当然、再起は不能と告げられるのだが、ビニーは、密かにトレーニングを始め、ケビンも付き合わせるのだ。

そして半年。固定具が外されたビニーは通常のトレーニングを再開、再起に向け対戦相手を探し始めるが、誰もが尻込みして応じない。しかし、かつてのマネージャーがこれは金になると、タイトルマッチ戦を計画。映画はその試合がクライマックスになる。そして判定勝ちで見事タイトルを奪取チャンピオンとなって映画は終わる。

実話であるからなるべくしてラストシーンに向かうのですが、周辺の人間ドラマはそれほど重視せず、ひたすら主人公ビニーの闘志を中心に描いていくシンプルさは好感。ストレートに一人の人間の強い意志を見据えることができるし、わかりやすく勇気付けられるところだが、その背後にはもともとあった運動能力の才能に帰するところが見え隠れするリアリティがある。その辺りのクールな演出がこの映画の魅力かもしれません。

ボクシングシーンは特に秀でたカメラワークを使わず、ひたすら周辺の人々の意気込みで試合のシーンを盛り上げていく。確かに不屈の精神力で立ち直った一人の男の物語ですが、それは彼だからできたという冷静な視点をしっかり描いている点で優れた人間ドラマかもしれません。真面目ないい映画だった気がします。