くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あゝ、荒野」「水溜り」「戦場にながれる歌」

kurawan2017-10-10

あゝ、荒野」前篇
これは傑作、菅田将暉の迫真の演技で作品を牽引して行く一方で、さりげなく配置した脇役の存在感が物語に厚みを加える。さらに的確なテンポのカメラワークが映画を躍らせていきます。久々に、力の入った本当の力作に出会った気がします。このまま後篇へ続けば、今年のベストワンかもしれません。監督は岸善幸です。

主人公新治が三年の少年院生活を終えて出所、ラーメン屋に入るところから映画が始まる。隣の客が豪勢なラーメンを注文し、出てきたところで突然外で爆発音。続いてもう一度爆発、時は2021年新宿。新治は平然と店に戻り、隣の客が注文したラーメンを食べ始める。このオープニングだけでこの作品のレベルがつかめてしまうほどにうまい。

新治はかつてオレオレ詐欺をしていたが、ある時、仕事の後突然襲われ、相棒の劉輝を半殺しされた挙句、自分も少年院に送られた。昔の仲間を頼ってみると、かつて安全圏にいた男たちは彼らとは別の仕事で稼いでいた。どうしようもなくなった新治はたまたま街頭で配っていたボクシングジムのチラシに興味を持ち、かつて兄貴分の劉輝を障害者にした裕二に復讐するつもりで入る。

ここに韓国人と日本人のハーフの青年建二は床屋で仕事しながら暮らしている。飲んだくれの父親と二人暮らしの彼は吃音でうまく喋れない。そんな彼も街頭でもらったボクシングジムに興味を持ち入る。

建二と新治は二人しかいないボクサーということもあり兄弟のように仲良くなる。物語はこの二人の成長を描いて行くが、新治を捨てた母親がボクシングジムの親会社の介護施設の社長の秘書であったり、東日本大震災で被災した母親は体を売りながら娘を育てていて、その娘で、男に体を売るふりをして金をせしめる悪女芳子を登場させる等で物語の幅を膨らませて行く。

前篇は建二と新治がプロデビューし、脇の登場人物と絡み始めるところで映画が終わる。後篇はおそらく裕二と新治の対決、建二が次第に成長して行く姿、そしてそれぞれの人物の成り行きが描かれ、大団円に向かうのだろう。

カットやシーンの合間に挿入するスタディカムのカメラのカットなどのテンポが実にうまいし、自殺防止キャンペーンを展開する大学生がイベントで自殺志願者に迫るパフォーマンスシーンなど、近未来の日本の縮図を想像した場面の面白さも目を惹くものがあり、かなり面白い展開もある。娯楽性も兼ね備えている面白さに、菅田将暉の熱い演技がいい空気感を作品に与えている作りが抜群の一本。後篇が楽しみです。

「水溜り」
当時なら並みの映画なのだろう。でも、中身が実にしっかりしているし、とにかく物語が大人の世界である。もちろん、今時、妾とか処女へのこだわりとか、アカとかは古臭いフレーズであるが、それでも登場人物それぞれが生き生きしているし、映画が元気で明るい。だから魅力的なのです。監督は井上和男

姉が会社の社長の妾で弟荒井武は大学生だが好き勝手に生きている不良学生。当然、貧乏でその日暮らしのために、犯罪行為をするも、そういう行為が横行していて、日常茶飯事。

近くに住む村子も不良と呼べるが、飲んだくれの父親やたくさんの兄弟の中で必死で生きている。

物語はこの荒井と村子のラブストーリーとして展開、そこに今となっては時代色のある当時の世相が次々と描写される。しかし、必死で生きる市井の人々の姿は、今見れば逆にほのぼの癒されて見えるのだから不思議である。それほど現代が世知がない世の中になったのかもしれないが、と言ってこの映画が作られた1961年は私も生まれて間もないのだから、実際に体験していたわけでもない。

高度経済成長真っ只中というのはこういう夢に向かっている時代なのである。その意味でこの映画はとってもよかったなと思えるのです。


「戦場にながれる歌」
ゆるゆるの脚本と演出でとにかくダラダラと長い作品だった。ストーリーがどういう方向に進むのかその方向が全くわからないので、一体いつ終わるのかと思って感情移入もできないし、映画としても特に優れたものが見えない。監督は松山善三

軍楽隊に入団した人たちが厳しい訓練で一人前になって行く姿がまず描かれる。時は昭和十八年、戦況が悪化して行く直前である。このあたりはまだいいのです。

そして、一人前になった軍楽隊は戦地へ送られ、中国での物語が延々と描かれるが、的を射てないので、何がどうかわからない。

やがて戦局が悪化し、彼らはフィリピンへ行き間も無く銃器を持って戦闘することになる。そして終戦アメリカ軍の元で作業をする主人公たちの姿から、最後は埋めてあった楽器を手に演奏してエンディング。ってなんなの?という映画だった。