くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「追想」「エルネスト」「戦争のはらわた」

kurawan2017-10-11

追想
ロベール・アンリコ監督の代表作の一本を見る。第二次大戦末期、ドイツ兵に家族を惨殺された医師がたった一人で復讐をする物語。一見静かなタッチで展開して行くドラマですが、あちこちに主人公の悲しさが溢れているという独特の演出スタイルが目を惹く作品で、決してアクションとかバイオレンスとかではないのですが、見入ってしまいます。

妻クララと娘フロランスが向こうから自転車でやってくる。少し遅れて夫のジュリアンがやってくるというのどかなオープニングタイトルから映画が始まる。ジュリアンの妻はフロランスを残して家を出たので、のちに知り合ったクララと結婚したのだ。そして幸せそのものの毎日を送っていたが、やがて第二次大戦が始まり、彼らの住む田舎町にもドイツ兵がやってくる。

時折爆発音が聞こえ、危険を感じたジュリアンはクララとフロランスを田舎に疎開させることにする。ところが疎開先にジュリアンが後日行って見ると村人全員ドイツ兵に惨殺されていて、どうやらクララとフロランスも殺されたことを知る。

古びた城のようなところをアジトにしているドイツ兵たちにジュリアンはたった一人で戦いを挑む。隠し部屋と地下通路を巧みに使い分け、一人づつショットガンで殺して行くジュリアンの脳裏に、幸せだった頃の物語が次々と思い出されてくる。

映画は、見えない敵に翻弄されるドイツ兵の姿、執拗に追い詰めるジュリアンの姿、何度も回想するフラッシュバック映像を巧みに使い分け組み立てて行って、単なるアクションの域にとどまらない展開を見せる。

途中やってきたレジスタンスにもあえて話さず、まるでクララとフロランスが生きているかのような言動を繰り返す様は、狂気に囚われたのかさえ感じる。しかもジュリアンの行動は実に静かで淡々としているのがかえって怖いのである。

やがて最後の一人を火炎放射器で焼いてしまい、やってきたレジスタンスと友人フロランスと帰路のつく。そしてフロランスに、クララが待っているから食事でもどうかと誘ってから、現実に目を覚ますラストがたまらない。

独特のタッチが面白い一本で、このオリジナリティが作品の魅力だと思います。良い映画でした。


「エルネスト」
なぜ日本で今この企画なのかよくわからないが、普通の映画だったかなと思います。こういう人物がいたという記録映画としては楽しみましたが、だからと言って、主人公エルネスト・前村がどれほど信念を持って行動したのかはそれほど描かれていない気がするのです。監督は阪本順治

キューバ使節団が日本の広島を訪れるところから映画が幕を開ける。使節団の代表は当時少佐だったチェ・ゲバラである。平和記念公園を訪れ、原爆病院を訪れ、日本が核兵器に見舞われたにもかかわらずアメリカに怒りを示さないのが解せないと国を去ります。

ここに、日系二世でボリビアに住むフレディ・前村、彼はキューバで医学を学ぶためにやってきます。そこでかれはチェ・ゲバラと出会い、彼に触発されるのですが、その辺りが全く見えないというか、インパクトが弱くて、物語が盛り上がって来ない。

やがてキューバ危機が訪れ、軍隊に参加するフレディ、その危機を越えたものの、ボリビアが軍事クーデターが起こる。そこでフレディはボリビアに帰り、チェ・ゲバラカストロらと革命に参加、戦うものの、ボリビア戦線で命を落とします。

フレディがチェ・ゲバラからエルネストの称号を与えられるシーンなどもあるのですが、ゲバラがフレディを認めた経緯も今ひとつ弱いし、全体にポイントポイントが非常に弱いために、ストーリーにメリハリが生まれて来ないのです。

実話の映画化なので、フレディという人物がこういう大人しい人間だったのかはわかりませんが、胸に秘めた熱さが全く見えません。というわけで普通の映画という感想です。


戦争のはらわた
サム・ペキンパーが監督した戦争映画を見る。圧倒された。これが戦争映画、これが傑作と呼ぶべき一本、物凄かった。戦闘シーンの迫力もさることながら、ドラマ的にも奥の深い作りになっているし、ストーリー展開も見事な構成になっていて、片時も目を離せない。なるほどと頷ける名作でした。素晴らしいです。ある意味「ダンケルク」など足元にも及ばないかもしれません。

ナチスのニュース映像に子供達が歌う童謡がかぶりながら映画が始まる。映像が終わるとモノクロのナチスの旗が一斉にカラーに変わる。第二次大戦末期、ソ連の猛攻で追い詰められ始めるドイツの最前線を舞台に物語が始まる。ここに、曲者だが勇敢で部下の信頼の熱いシュタイナーという伍長がいる。この日も、戦闘をくぐり抜け、塹壕に戻って来た。

この日、一人の上官シュトランスキー大尉が赴任してくる。もともと貴族出身で、勲章を得ることしか頭のない小心者の司令官にシュタイナーはじめ誰も慕わないが、やがて戦況は日毎に苦しくなってくる。

ソ連軍の猛攻に反撃命令をするところ、塹壕から出ずに、大勢の部下を死なせ、シュタイナーも重傷を負って病院に担ぎ込まれる。激しい戦闘シーンが実に素晴らしく、編集とはこういうのをいうのだろうと圧倒されてしまいます。

一旦は退役かと思われたシュタイナーは、戦場に導かれるように元の小隊に戻ってくる。虚偽の上申書を書かせてまで勲章を望むシュトランスキーに、シュタイナーは、かすかな哀れみさえ浮かべる。このほんの少しの会話シーンが実にうまく、貴族ゆえに手ぶらで帰れないシュトランスキーの悲哀がさりげなく描写される。

ソ連の猛攻が続き、ついにドイツ軍は撤退を決定するが、シュトランスキーはわざと通信線を切ってシュタイナーに電令が届かないようにしてしまう。そうとは知らず、戦うシュタイナーは、ソ連軍の中に取り残されてしまう。迫ってくる戦車、戦車、その中で巧みに戦術を組みながら窮地を逃れて行くシュタイナーたちの奮闘シーンはもの凄い迫力で、スローモーションと細かいカットの連続を巧みに組み合わせた編集に度肝を抜かれて行く。

途中、ソ連の女部隊に遭遇して窮地に落ちたりしながら、ソ連の軍服を着て捕虜搬送のいでたちで味方の陣地に戻ってくるシュタイナーはたちだが、これを喜ばないシュトランスキーは、わざと間違えて撃ち殺せと命令する。そうとは知らず、無防備に近ずくシュタイナーたちは、味方を目の前に次々と撃ち殺されて行く。

なんとか、くぐり抜けたシュタイナーは、銃を撃ったシュトランスキーの部下を撃ち殺し、一人シュトランスキーの前に現れる。そして、撃ち殺すのかと思いきや、俺についてこいと言い、鉄十字章の勲章の取り方を教えてやると二人で敵前に飛び出す。

もたもたするシュトランスキーを爆笑しながら撃ちまくるシュタイナー、そして冒頭の子供の歌が聞こえてきて、ナチスの映像写真が流れエンドクレジット。唖然とするラストだが、シュトランスキーの悲哀を認めたシュタイナーの人物像の描き方が見事なラストシーンです。そして、戦争の馬鹿らしさを一気に見せるメッセージ性も素晴らしいです。

映像演出の見事さは、何度も言いますが恐ろしく圧倒されますが、細かい人物描写にも手腕を発揮するサム・ペキンパー監督の力量に脱帽する作品でした。これが映画史に残る名作というのでしょう。