くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「われ一粒の麦なれど」

kurawan2017-10-06

「われ一粒の麦なれど」
相当に重い内容と、今では絶対に作れないような描写をちりばめたドキュメンタリータッチ、そして、悪くいえば、かなりの偏りのある作品でした。監督は松山善三です。

外に愛人を作り麻雀や賭け事を好む当たり前の農林水産省の役人の主人公は、ある時、子供がポリオにかかり絶望している母親からの間違い電話を取ったことから、自分の中の何かが変わり、突然ポリオ、つまり小児麻痺に興味を持ち始める。当時はまだまだ医療への関心も浅く、北海道で流行していると言われていたものの、知る人さえわずかだった。

しかし、それに危機感を持った主人公は様々なつてや関連をつなぎ始め、ポリオ撲滅キャンペーンを打つまでに至る。物語はこの架空の主人公を中心に、当時の世相を映し出しながら、まだまだ何事にも貧しかった日本の現状と人々の考え方を真摯な視点で映し出して行く。

情け容赦なく障害者をカメラに捉えたり、過激なセリフを絡めて行く展開は、おそらく現代では絶対に作れない映像となっている。その意味で、ただの一人の英雄物語ではなく、そしてただ撲滅運動を通じて一個人の力がこれほどになるのだとい道徳的な作品でもなく、どこか作家の偏ったメッセージも見えているような気もする。

その意味で素直に感動するまでにはいかないのですが、手前に人物を配置してパンフォーカスで見せるアングルや、車椅子が巨大に障子に写しながらのなどのテクニカルなカットなど、映像表現としても優れている点はなかなかの一本でした。