くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「愛しのアイリーン」「プロヴァンス物語 マルセルの夏」

愛しのアイリーン

なかなかクオリティの高い秀作、全体が映画になっているという出来栄えが出色の1本でした。もう少し、凝縮させたらさらに良かったかもしれません。監督は吉田恵輔

 

山深い東北の山村、一人の老人が新聞が来ていないと喚いている。少しボケの入ったこの老人の息子岩男がこの物語の主人公である。岩男は四十を超えて今尚独身、母親のツルはなんとか結婚させたいが、プライドが高く、知り合いの持ってくる相手にことごとくケチをつけている。

 

岩男はパチンコ店の勤め、そこのシングルマザーのパートの女や、年増の女から言い寄られたりしている。誕生日にシングルマザーの愛子に食事に誘われ、その気になったが実は遊びで男を漁っている女だとわかる。

 

自暴自棄に行きつけのフィリピンパブにより、そこのマスターがフィリピンの女性を結婚相手として斡旋している話を聞くが、相手にしなかった。ところが、夜道を歩いていて車にはねられ、そのまま岩男は行方不明になる。

 

一方岩男の父は、突然倒れ帰らぬ人となり葬儀の日、岩男がひょっこり帰ってくる。しかも傍にフィリピン女アイリーンを連れ、妻だという。どうやら岩男はフィリピンに出向き、そこの女を半ば金で買うように結婚したことがフラッシュバックで描かれる。

 

ツルは許せず、猟銃を持ち出しアイリーンを追いかける。岩男はそれでもアイリーンと暮らし始めるも、SEXをさせてもらえない。そんなアイリーンにフィリピンパブで知り合ったやくざ者の塩崎がつけ込んでくる。どうせ金のために結婚したのなら、割り切って体を売るほうがいいと持ちかける。

 

アイリーンを追い出したいと思っていたツルも塩崎と組んで、岩男に堅物の女をあてがい、一方でアイリーンを塩崎に与えてしまおうと画策、まんまと塩崎がアイリーンを車に乗せようとしたところへ岩男が帰ってきて、追いかけた末、猟銃で塩崎を殺してしまう。そしてアイリーンと一緒に山の中に死体を埋める。

 

塩崎の舎弟らしいヤクザが岩男の周りをうろつくようになり、嫌がらせがエスカレートする一方、暴力的になる岩男を受け入れられないアイリーンはだんだん岩男と疎遠になる。

 

やがて冬がきて雪に覆われたこの村、アイリーンは塩崎への弔いのためにお寺の若い住職と親しくなりお経を教えてもらい始める。そんな姿に嫉妬した岩男はアイリーンに金をやってSEXするようになる。

 

かつてツルが世話した女がパチンコ店にやってきたので、岩男はここでオナニーしろと要求、そこへたまたま弁当を持ってきたアイリーンと鉢合わせる。岩男はアイリーンを殴り、そのまま神社の森に向かう。そして、神社の森にアイリーンの名を刻み続けながらアイリーンへの思いを続ける岩男。本当は愛しているのだが、呻く言い表せないもどかしさを木に刻むのであるが、足元が狂い転げ落ちて気を失う。

 

行方の分からなくなった岩男を必死でツルは探すが、たまたま神社に止まっていた車を見つけたアイリーンが森に入っていき、凍死している岩男を見つける。アイリーンは家から布団を担いできて着せ、母親を案内する。ツルは岩男の死体を見て卒倒、そのまま足が動かなくなり、口もきけなくなる。

 

そんなツルをアイリーンは世話をするが、ある朝、フィリピンへ帰ると告げる。ツルはそれなら自分を山の中に捨ててくれと頼む。そしてアイリーンはツルを背負って姥捨山のごとく雪深い山の中へ。しかし、やはり捨てきれず、これからも一緒に暮らしたいと、再びツルを背負って山を降りかける。ツルの脳裏に、岩男を産んだ時のことが鮮やかに蘇る。ツルは三度の流産の末に予約岩男を授かったのだ。

 

そして、アイリーンに背負われながら、そのまま後ろ向きに倒れこんで死んでしまう。一人残ったアイリーンのバストショットで映画が終わる。

 

終盤までの山村を中心にした画面作りから、ツルをおぶって行く雪のシーンの一気に解放されたような絵作りの転換が見事。しかも、この終盤が実に美しい色彩演出がされている。

 

全体が重い話のようだが、実にさっぱりとしたか感覚で見ていられるには、登場人物それぞれが包み隠すことなくストレートに感情をぶつけているせいだろう。

 

ただやりたいだけで「おまんこ」を繰り返す岩男の姿や、裏も表もなく売春を進める塩崎、ただ息子を愛するという一心だけで、むちゃな行動を思いつくままにするツル、そして、家族のために出てきたものの、できることなら愛されたいが、お金と割り切ろうというしたたかさを持つアイリーン。男に抱かれたいままに岩男に迫る年増の女たち。どれもが本当に人間臭くて気持ちがいい。

 

しかもラストのカットは映像的に抜群に美しいのだから、これは映画としてのクオリティがしっかりできているというほかありません。好き嫌いはともかく、見る価値のある一本でした。

 

プロヴァンス物語 マルセルの夏」(4Kデジタルリマスター版)

広大な自然の中で描かれる素朴な人たちの姿を一人の少年マルセルの視点を通して描く作品で、派手な展開などもないがどこか心が落ち着いてしまう、そんな作品でした。

 

主人公マルセルがこの世に生まれる場面から映画が始まる。父ジョセフは厳格な教師で母オーギュシュティーヌはお針子である。そんな二人の間に生まれたマルセルは、幼い頃から父の教室に置かれ母が買い物に出かけたりしているうちに字を覚えてしまう。時は20世紀に入ったばかり、まだまだ人々の心は純粋で素朴な時代である。

 

ジョセフの出世に合わせて、マルセルの家族は引越しを繰り返し、弟ポールも生まれ、妹も生まれる。旧友たちといろんなことに興味を示しながら、子供ながらに想像と理解を繰り返して行く様が描かれる。

 

やがて夏のヴァカンスがおとづれ、マルセルたちはプロヴァンスの別荘に行く。そこは、普段生活している街とは打って変わっての田舎村で、人々の素朴な姿に接し、自然の中に暮らす。父ジョセフはここで大きな獲物を射止め、自慢する。

 

マルセルはそこで地元の少年と出会い、自然の知識を色々と教えてもらいながら、その自然の不思議に引き込まれて行く。

 

やがてヴァカンスが終わり、マルセルはここに住もうと夜中に家を抜け出すが、怖気付いて戻ってきて、友達に別れを告げて去って行く。こうして物語は終わります。

 

大きく広がる山々や、嵐迫る空の描写、稲妻、街の人々の素朴な視線、などなど、何か忘れてしまった現代の人々にのどかなノスタルジーを思い起こさせてくれます。さりげない色彩演出も画面に彩りを加え、落ち着いた色彩を基調にした絵作りがとっても美しい。名編と言える一本ですね。いい映画です。