くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「山の郵便配達」「天使にショパンの歌声を」「風櫃の少年」

kurawan2017-01-16

山の郵便配達
静かな人間ドラマですが、とっても心にしみる感動が迫ってくる秀作でした。監督はフォ・ジェンチィです。

1980年代、中国の山深い村の郵便配達の親子の姿から映画が始まる。何日もかけて山深い村々に郵便を配達する仕事を長年してきた父は、寄る年波もあり息子に仕事を譲ることになる。その最初が今日なのである。

愛犬の次男坊というシェパードを連れ、一人息子を行かせられないと父も付き添って配達にでかける。

その先々で出会う村の人々との心の交流や人間模様を描きながら、父に反駁していた息子は次第に父のこれまで歩んできた人生が見えてくる。

そして、今まで「おとうさん」と呼ぶことがなかった息子は、最初の配達の終盤、初めて「おとうさん」と呼ぶ。

広がる田園風景のみを背景に描かれる親子の物語は、時にいく先々で出会う人々の笑顔や視線、心遣いを鮮明に浮きがらせ、あまりにも素朴で、ともすると忘れてしまいがちな心の絆を思い出させてくれます。

初めての配達が終わり、一人で次の配達に出る息子を見送る父の姿で映画は終わりますが、なんとも言えない人間の心の素朴さが、ストレートに胸に迫ってきて熱くなってしまいました。いい映画でした。


「天使にショパンの歌声を」
これは普通の映画でした。山深い場所にある小さな寄宿学校を舞台に、その廃校問題と一人の少女の心の再生を描いた美しい物語で、劇中で登場する名曲クラシックの数々がとっても心に響きました。監督はレア・プールです。

修道院による運営がなされる寄宿学校をがその採算の問題から廃校が迫られてくる。そんな折一人の少女が転校してくる。

修道女たちは音楽を通じて学校を立て直すべく奔走し、転校したきた少女のピアノの才能にも目をつけて練習を重ねるが、コンクールが迫るある日、上層部の総長が学校を売却し、寄宿学校の学長も別の赴任先を言い渡される。

そしてコンクールの当日、見事に演奏した少女を抱きしめて映画が終わる。確かに感動のラストで、丁寧に描かれていく物語は作品の真面目さを見せてくれます。とは言え、それ以上に秀でたものは見受けられない点で無難な作品かなと感じる一本でした。


「風櫃の少年」(フンクイの少年)
スクリーンから漂ってくるなんとも言えない日常風景と、どこか切ない青春の一時期の物語が、作品全体を覆っていて、観終わってみたら、なぜかノスタルジーに浸ってしまってしんみり感動してしまいました。監督は侯孝賢、彼の名を一躍有名にした名作である。

風櫃に暮らす三人の少年は、いつもつるんでは悪さを繰り返していた。ある日、警察沙汰を起こして、いづらくなった彼らは大都会高雄に行くことにする。

物語はこの三人の少年の若さに任せたギラギラした生活を描くのですが、さりげない市井の人々のインサートカットや、何得ない風景の映像、さらに原色を画面のいたるところに配置した色彩演出など、映像表現としても素朴な美しさを表現している。

とくに、際立った事件など起こらない。無銭で映画館に忍び込んだり、怪しい映画があるからと騙されたり、女性に対する思春期の憧れが垣間見えたり、父の死で、想い出に涙ぐんだり、少しずつ成長していく少年たちの話は、どこかに自分を見つけてしまいます。

侯孝賢監督の自伝的映画らしいですが、監督の思いが画面に染み込んでいるようで、とっても切なかった。名作ですね。