くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「病院で死ぬということ」「ざわざわ下北沢」「東京兄妹」

病院で死ぬということ

病室をフィックスで捉えたカメラの中で展開する様々な人間模様。独特の演出が逆に心に染み渡る感慨を生み出してくれました。監督は市川準

 

ある病院の病室。カメラは三人のベッドを写し、一人の老人が窓際でクワガタを見つけるシーンに始まる。といってもカメラが寄るわけでは無く、同じ距離で捉えたままである。

 

物語というのは入れ替わり入ってくる患者の姿の中に、それぞれの一瞬の人生を描いていく。末期の癌患者ばかりらしいので、誰一人回復して退院していく場面はない。病気の進行が進み、心の苦しみが強くなる一方で、冷静さが見えてくる。

 

一人また一人ベッドが空になるのを見つめる山岡医師。そして時折、街の様子や自然の景色のインサートカットが繰り返し挿入される。時の流れを、人生の機微、それが再び病室に戻りドラマを映し出す。

 

静かながらも中身を感じさせる秀作でした。

 

ざわざわ下北沢

誰が主人公とか、どういうお話とかは一本通ったものはないけれど、スケッチブックをめくっていくような雑多感がとっても素敵な一本でした。監督は市川準

 

様々な若者達が集う下北沢。小劇場の役者、小さなカフェ、雑貨屋、飲み屋、それらに集うその日暮らしのような若者達。何をするでもなくどこに向かうでもない。そんな雑多な日常が次々と捉えられていく。

 

犯罪めいた何かの追っかけがあり、みんながそこに向かって走っていくと、そこに温泉が湧き出て、物語は終焉を迎える。いや、物語があったのか?

 

いたるところに俳優が散りばめられ、エンドクレジットであっと驚いてしまうのだが、その楽しみを後に残して、とりあえずエンディングとなるこの映画の魅力は、ある意味市川準の典型的な作風なのかもしれません。楽しめる一本でした。

 

「東京兄妹」

とっても静かなリズム感で描かれていく兄と妹の素敵な物語。監督は市川準

 

両親を亡くした洋子が高校を卒業する日に映画が始まる。彼女を育て支えたのは兄の健一で、洋子は兄の世話をしながらここまで生活してきた。懐かしいような旧家の佇まい、市電が近くを走り、人情味あふれる人たちが住んでいる。冷奴が好きだった父同様健一も好きで、いつも鍋を持って洋子は近所の豆腐店に豆腐を買いに行く。今となっては懐かしい風景で映画が展開していく。

 

ある時、健一は友人の三村を家に連れてくる。たまたまバイト先の写真店で三村を見かけていた洋子は、ちょっと心が引かれ、三村は洋子をデートに誘う。やがて二人は恋人同士になり、洋子は家を出て三村と暮らすようになる。そんな洋子を非難してしまう健一。しかし、間も無くして二人は破局、三村は死んでしまう。

 

帰ってきた洋子を温かく迎える健一。そしてまた以前のような二人の生活が始まるが、ある夜、帰ってきた健一は一旦格子戸をくぐるが、待っている洋子の姿を想像し、振り返り、ストップモーションで映画が終わる。

 

いつまでも洋子を縛る結果になっている健一自身の自嘲か、複雑ながらもどこか心に何かが聞こえてくるラストがちょっと切ない。大人になっていく洋子。これまでの恩義で兄の世話を献身的にする洋子の姿を見て、自分の次の責任を感じたかの健一のラストがとっても素敵。いい映画でした。