くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「おとなの恋は、まわり道」「あしたの私のつくりかた」「トニー滝谷」

「おとなの恋は、まわり道」

全編二人だけの会話劇なので、つくりようによっては面白くなるのですが、その間合いがうまくいっていないのでひたすらダラダラと展開してエンディング。面白い作品ながら退屈だった。監督はビクター・レビン。

 

空港で二人の男女、リンジーとフランクが出会う。いきなり悪態をつき始め、相性が悪い雰囲気だが、二人とも同じ結婚式に招待されていた。

 

道中のいく先々で隣り合わせになり、ひたすらお互いを罵倒したり結婚する二人をばかにしたり。その会話がウィットに富んでいてリズミカルならいいが、いかにも普通。西洋人には気の利いたセリフなのかわからないが、場面が次々変わるだけで展開は同じ。

 

終盤二人は戸外でSEXして、どこか意気投合したように同じ部屋で休む。そして翌朝、リンジーは先に帰り、後からフランクも空港へ向かって映画が終わる。

 

終盤さすがに眠くなってしまった。脚本の弱さ、演出の才能のなさ、そのものの一本でした。

 

「あしたの私のつくりかた」

演出のリズムがあっていないのか、全体が間延びしたような物語になっていますが、お話自体はちょっと切なくて素敵なストーリーでした。AKBで大ブレイク前の前田敦子が初々しいし、成海璃子も可愛い。それだけで十分です。監督は市川準

 

ある小学校、クラスの人気者日南子、そして両親の期待を担いながら複雑に立ち回る主人公寿梨の姿から映画始まる。寿梨は私立中学受験のためしばらく学校を休むが、久しぶりに学校に戻ると日南子はいじめられ側になっていた。

 

卒業式の日、二人は図書室で会話を交わす。そして中学、高校へと進むが、ある時、たまたま日南子が山梨へ引っ越したことを寿梨は知る。そしてメアドを聞いた寿梨は、名前の読み方をコトリと変えて日南子はヒナと読み替えメールを送り始める。それは、両親の離婚を超え、周りに合わせて立ち回る術を覚えた自分が本当になりたい自分をヒナに重ね合わせる物語だった。

 

ヒナはコトリからのメールの通り、日常を楽しく過ごす。一方コトリは、「ヒナとコトリの物語」として文芸部で小説に仕上げて行った。そして文芸部の小説集が書店に並んだ日、かつて小学校時代、日南子の前にいじめられていたクラスメートと再会する。しかも彼女はかつての寿梨の家に引っ越していた。

 

それを確認した帰り、寿梨に日南子から電話が入る。そしてテレビ電話に切り替え、コトリが寿梨であることを最初から知っていたとヒナである日南子が告白する。

 

そして、これをきっかけに本当に二人の友情ができ、寿梨も、自分に素直に生きることを決心する。学校では、毎年恒例の一年生のマスゲームが行われる。寿梨の父も兄も、母もその恋人も見にきてくれた。映画は晴れ晴れした寿梨の姿で終わる。

 

爽やかな青春ドラマで、どこかファンタジックでさえあるのですが、どうもリズムが乗り切らず、成海璃子前田敦子のボソボソだけが目立つ作品になってしまっているのが残念。本来ならこのボソボソが市川準の色になるところなのですが、これはうまくなりきれなかった感じです。

 

トニー滝谷

全編ソナタのような静かな調べで奏でられる一人の男の孤独な物語。切ない空気感に浸りきってしまう一本でした。監督は市川準

 

主人公トニー滝谷の父がいかにして戦後を生きてきて、いかにしてトニー滝谷の名前がついたかが語られ、トニー滝谷の子供時代が綴られていく。

 

そして細かい絵が得意だった彼はなるべくしてイラストレーターとなる。間も無くして仕事で知り合った一人の女性と結婚。孤独から解放される。

 

妻としては完璧に近い彼女だったが、洋服には異常なほどに執着し、次々と服や靴を購入、そのための一部屋が必要なほどになってしまう。しかし、ある時、買った洋服を返品した帰り事故で死んでしまう。

 

失意の中のトニー滝谷は、妻と全く同じ体型の女性を助手として雇うことにし、来た女性に妻の洋服を着て欲しいと頼む。しかし、そうは頼んだものの、一週間分持って帰った日にトニー滝谷は契約を切ってしまい、残りの服は全て処分。間も無くして父も亡くなる。

 

父の遺品も捨てたトニー滝谷は、ガランとした衣装部屋で、かつて雇った助手が妻の服を試着していたときに泣き崩れたことを思い出し、彼女に電話をかける。しかし、彼女が出たのか話した後なのか、受話器を置いて映画が終わる。

 

カメラがティルトで動きながら場面が変わる転換と、朗読によるセリフと本来のセリフの重ね合わせなどテクニックを駆使し、静かな音楽の奏でる中で、一人の男の孤独の物語を描いていく。

 

大きなドラマはないのだが、じわじわと胸に切なさが染み込んでくる感じの作品で、派手さはないけれど心に残る一本でした。