「会社物語」
細かいカットの積み重ねで物語を紡いでいく独特のタッチが面白い。監督は市川準ですが、彼の作品はほとんど見ていないので、なかなか楽しめました。
主人公花岡は、間も無く定年を迎えるサラリーマン。いつものように通勤電車に乗り、会社では憧れる若い女性社員にさりげなく視線を送ったりする。
女性従業員同士のトークシーン、様々な会社での場面を特に意味もなくつなげていき全体のムードを作り上げていく。
花岡の気持ちを察した先輩女性社員が花岡が気にしている女性社員に、花岡とデートしてあげてなどと頼み、なにげない食事のひと時を得る花岡。
その女性社員の恋人は専務の娘と婚約し、あっさり彼女と別れる始末。花岡の知り合いで若き日にジャズをやっていたメンバーが再結集し、花岡も交えバンドを作る。そして花岡の勇退日にコンサートを企画するが、突然花岡の息子が家庭内で暴れ始め慌てて自宅へ帰る。
一段落してコンサート会場へ戻り、花岡はドラムを叩く。その音に従業員たちが集まり賑やかに送り出され、会社を後にして映画が終わる。
淡々と花岡の姿がドラマとして描かれる様が実に素朴と哀愁を漂わせ、さりげないカットの連続になんとも言えないうんちくを込めた演出がうまい。若干、好みでない人には退屈を感じるかもしれないスタイルですが、個性を持った1本だったと思います。
「ノーライフキング」
ちょっとシュールな感じの作品。細かいカットの組み立てと呟きの連続の中で、ゲームにのめりこんで行く少年たちの不思議な物語は、ちょっと眠いながらも面白かった。監督は市川準。
「ライフキングの伝説4」のゲームの売り出し日に映画が始まる。並んでいるファンの足のショット。そして、一人の小学生マコトがそのゲームを始める。
背後に都市伝説のように、呪いのかかったソフトが混じっていて、それは「ノーライフキング」と呼ばれる。その呪いを解くには最後までクリアしないといけない等の呟くがかぶる。
他にも小学生の間で広まる様々な都市伝説が語られる。そして一学期の終業式、校長先生が突然倒れ死んでしまう。
長い夏休み、塾の講習で、パソコンの前に座り、まるで近未来のような授業風景が展開。そしてマコトの元に、ノーライフキングを解いてほしいと沢山の電話が入ったりソフトが送られてきたりする。
マコトは北海道にいるというゲームの天才に連絡を取る。その少年から、「外に出てみてください。リアルですか?」と質問が来て、マコトが外に出る。リアルな世界が展開している。カットの積み重ね、そして、夏休みも終わり、友達もライフキングを全部クリアしたと話し合っているカットでエンディング。
シュールだがどこかファンタジーである。ゲームにのめり込む少年の姿を描く社会派映画のようだがそこまで重くない。その不思議な曖昧さが独特の空気感を生み出す一本でした。
「つぐみ」
何十年ぶりかの再見。監督は市川準。ほとんど覚えていませんでしたが、これはなかなか良かったです。牧瀬里穂の演技力にも寄るところがありますが、物語のテンポがとっても良いです。
幼い頃から体が弱く、わがまま放題に育ったつぐみが、大学に入って東京へ行った唯一の友達まりあを、夏休みに呼ぶところから映画が始まる。
つぐみのこれまでをまりあのセリフで語らせながら、沼津へ戻ってきたまりあは早速つぐみとの日々を暮らし始める。
つぐみはかつてチンピラまがいの中西という男と付き合っていたことがあり、ある日、まりあと浜辺に行った時に絡まれ、通りかかった高橋という青年に助けられる。
それまで突っ張って、人の嫌うことばかりしていたつぐみはなぜか高橋に心を引かれる。そして二人は恋に落ちるが、中西らが嫌がらせを始める。
飼い犬が殺され、高橋も怪我をさせられ、つぐみは復讐のために夜中に廃工場に大きな落とし穴を作り始めるが、体力が尽きてとうとうたおれてしまい、入院する。
やがて夏が終わり、まりあは東京へ帰る。そこへ、つぐみから手紙が来る。自分がいかに体が弱く、わがままだったことが穴を掘っている間に自覚したという内容と、いかにももう命はなくなるというような言葉だった。
しんみりしたまりあに電話が入る。出てみると、いつものつぐみの陽気な声だった。こうして映画は終わる。
吉本ばなな原作のベストセラーの映画化ですが、さりげない田舎町の風情と、青春期の若者の甘酸っぱいような心の変化が見事に描き出されていて、とっても良い感じの作品でした。