くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「マスカレード・ホテル」「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」「乗馬練習場」

「マスカレード・ホテル」

面白かった。久しぶりに、面白い推理ドラマを見た感じです。もちろん、推理小説の常道のような犯人像なのですが、見せ方が上手くて、役者の選択が見事で、すっかり引き込まれて、いいように乗せられてしまいました。しかも東野圭吾お得意の、胸が熱くなるドラマ性も再現されていたのが良かった。監督は鈴木雅之

 

一流ホテル、ホテルコルテシア東京のロビーから映画が始まる。そこに物々しい様子で地下から乗り込んでくる男達。彼らは刑事で、連続殺人事件の次の舞台がこのホテルだと推理して、犯行を防ぎ犯人を確保する為にやってきたのだ。そしてホテルマンに刑事が扮装し潜入捜査をすることになる。

 

破天荒だが、洞察力に優れた新田浩介刑事は、フロントクラークとして潜入することになるが、指導になったのがクラークリーダーでホテルマンとして誇りのある中堅の山岸尚美だった。最初からお互い反発する二人だが、それぞれが見せるプロとしての知識と経験から次第に信頼関係ができてくるという展開となる。

 

最初、二人の前に現れた、目の不自由な老婦人。何かにつけて山岸が気に入り呼びつける婦人。実は目は不自由ではないと見破った新田刑事は、この婦人が山岸に危害を加えようとしているにではと不審に思うが、帰り際、実は、間も無くくる夫が実は目が不自由で、その下見にこっそりきたのだと告白、この出来事から山岸と新田の信頼関係は急激に接近し始める。

 

あとは、ストーカーから逃れようとやってきたかの女性と、追ってきた男で、実は夫だったというエピソード、新田の学生時代にやってきた教師志望の男との確執の話、バスローブどろぼうのエピソードなどを交え、山岸と新田の信頼関係が深まる展開が実によくできている。

 

そして、本来の犯罪阻止に関し、このホテルで結婚式を挙げるカップルが次第に存在感を高め、新婦の元彼が新婦を狙っているかの展開から、実は連続殺人事件の本当の意図が浮かび上がってくる。さらに背後に語られる山岸が過去に対応したお客様とのやりとりがしっかりと伏線になってくるのです。

 

そしてクライマックス、新田らが、結婚式を挙げるカップルに近づいた不審な男に目を奪われているところに、別途、外で調べていた新田のかつての相棒能勢からの報告で、真犯人が見えてくる。

 

実は、冒頭に登場した老婦人こそが、犯人で、狙っているのは山岸。かつて体良く断られた山岸のエピソードに出てきた女性が、その時の恨みも含め、様々な不幸の連鎖の結果もあり変装して山岸に迫ってきたのだ。そしてここまでの連続殺人事件は、それぞれ別の事件だったのに、犯行現場に残っっていた暗号メモを勘違いして判断していた。そしてそれらも、真犯人の仕業だった。

 

客室内に山岸を呼んだ老婦人は、カツラとメガネを取る。ここで松たか子登場。この配役が抜群にいい。そして山岸を縛り、筋弛緩剤を注射しようとするが、すんでのところで新田が飛び込み、無事救出逮捕となる。上手い。

 

事件が解決し、ホテルを去る新田、山岸達が丁重にお辞儀をする。そしてエピローグ、新田と山岸がホテルで食事をしている。映画はここで終わる。

 

冒頭、ホテルの中を延々と長回しに近いカメラワークで見せていく導入部から、さまざまな客のエピソードに紛れて挿入される推理の伏線が実に上手い。推理ドラマの映像としての醍醐味を楽しませてくれる映画でした。

 

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

生誕百周年でやたら出てくるサリンジャー映画の一本ですが、一人の青年サリンジャーの人間ドラマが丁寧に描かれた佳作でした。監督はダニー・ストロング。

 

ホールデンはもういないという主人公のつぶやきから映画が始まり、物語は6年前、1939年に遡る。

 

主人公サリンジャーコロンビア大学でウィット教授の授業を受けていた。教授のアドバイスもあり、短編小説を描くようになるサリンジャー。しかし、出版社からは断られる日々。父も小説家になることに反対をする。

 

やがて第二次大戦が勃発し、戦地へ赴くサリンジャーは、地獄のような戦地の生活を体験し、帰国後は、精神的に参ってしまう。そんな彼は宗教的な癒しを得る機会があり、その影響で書き溜めていた長編小説「ライ麦畑でつかまえて」を完成、認めてくれた出版社から出版されると一気に話題になる。

 

小説の主人公ホールデンは自分だというファンがサリンジャーの周りに現れ始め、落ち着かなくなったサリンジャーは、森の奥に一軒家を手に入れてそこで瞑想と執筆の日を過ごすことに決める。やがて結婚するが、たまたま受けた女学生のインタビューが地方紙に載ったことからさらに人を信じられなくなり閉じこもるようになる。そして執筆もしないことを出版社に告げ引きこもってしまう。

 

妻と離婚し、その後91歳で亡くなったというテロップで映画が終わる。

 

ライ麦畑でつかまえて」は実は読んだことはないのですが、サリンジャーの人物像と人生のドラマはしっかりと描けていたと思います。絵作りも上品だし、映画としても好感の持てる一本に仕上がっていた。いい映画でした。

 

「乗馬練習場」

しつこい展開で、だんだん面倒になる一方で、ファムファタールのドラとその母親への憎悪が募るばかりでかなりストレスになる映画でした。監督はイヴ・アレグレ。

 

ロベールの妻ドラが交通事故にあい病院に担ぎ込まれたところから映画が始まる。ドラへの愛をひたすら呟くロベール。そこへ彼女の母親がやってきて、事故はロベールのせいだと罵倒し、やがて、実はロベールとの結婚は金目当てだったと告白し始める。

 

映画は、フラッシュバックで、ドラとその母がいかにしてロベールに付け入り、金をせしめ、ロベールの乗馬練習場の仕事が危うくなってきたら、次のカモの男を物色していたことを話す。そして、まもなく離婚して新しい金のある男のところへ行く予定だったと話すのだ。

 

映画はひたすらドラが次々と男を変え、媚びていく様を延々と描いていくが、その展開が単調な繰り返しと、母とドラの悪女ぶりが続くので、気分が悪くさえなってきます。

 

そして手術は終わるが、真実を知ったロベールにはもうドラへの愛もなくなっていた。ドラは全身麻痺が残り車椅子になるという。ロベールは泣き叫び助けを乞うドラの母にもドラにも別れを告げ去っていく。

 

徹底的なファムファタールものという一本で、フィルムノワールの異色作という映画でした。