くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「少女ムシェット」「バルタザールどこへ行く」「ストックホルム・ケース」

少女ムシェット

四十年ぶりの再見。その時もあまり印象が残ってなかったが、傑作というのはこういう、時に一回でわからないが部分があるものだと改めて思う。たしかに徹底的に計算され尽くされた演出がとにかくしんどい。前半の細かいカットと最小限のセリフ、音楽の挿入だけで見せる主人公の立場、そして後半次第に物語が動いていくにつれて、まるで坂を転げ落ちるように、悲劇の結末に向かう流れは、最後まで見て、最初に遡って思い出してその見事さを知る。これが傑作というものなのだろう。監督はロベール・ブレッソン

 

森の中、一人の男が罠を仕掛けていて、それを見つけるもう一人の男の目がある。罠にかかる鳥を逃してやる男、逃してやったのは森番のマチュー。密猟者アルセーヌが罠を仕掛けたのだ。アルセーヌは酒場の女も口説き、マチューも口説くものの女はアルセーヌになびいたりする。

 

ムシェットは学校でも同級生や先生にも蔑まれ、裕福な同級生に泥を投げつけたりする。アル中の父親からは、アルバイトの金を取られたりし、唯一ムシェットを可愛がる母は病気で寝ていて、赤ん坊の弟の世話をムシェットがせざるを得なくなっている。

 

そんなある学校の帰り、ムシェットは雨にあい、森で雨宿りしていると、アルセーヌと出会う。そして山小屋に連れて行かれ、無理矢理体を重ねられる。翌朝家に戻ったムシェットは母に相談しようとするが、話を聞く前に母は死んでしまう。葬儀で街で色々段取りをしようとするムシェットに町の人々の冷たい視線があたる。

 

マチューに呼ばれ行ってみると、昨夜アルセーヌが密猟で捕まったという。昨夜、マチューとアルセーヌは酔った勢いで喧嘩をしたもののその後のアリバイがない。ムシェットは昨夜一晩一緒だったこと、自分はアルセーヌの愛人だと叫んで飛び出す。

 

途中、雑貨屋の女主人に葬式用の服をもらう。それを持って森に行く。ハンターがうさぎを次々と撃ち殺している。ムシェットは、もらった服を身につけて坂を転げ落ちる。何度も何度も転げ落ち、最後にとうとう沼に落ちてそのまま沈んでいく。こうして映画は終わる。

 

あまりにも切ない話であるが、徹底した映像演出で見せる物語はさすがにしんどい。しかし、何度も見直してみたくなる作品です。こういうのを傑作と呼ぶのかもしれませんね。

 

バルタザールどこへ行く

解説とラストシーンからおそらくそういうことなのだと理解できるのですが、なんとも長く感じてしまう映画でした。一匹のロバの目を通じて人間の愚かさ醜さを描いていく作品ということですが、正直、誰が誰でどういう話なのか追いかけるとしんどかった。監督はロベール・ブレッソン

 

ジャックとマリーという幼い恋人同士が、一匹のロバを手に入れるところから映画は始まる。ロバにバルタザールという名前をつけたマリーたちはこのロバを可愛がる。やがて十年が経ちロバは鍛冶屋の苦役にこき使われていた。ふとしたことで、荷台をひっくり返したことから、バルタザールはその場を逃げ出し、マリーの元に帰ってくる。マリーはバルタザールとの再会を喜ぶが彼女には不良の青年ジェラールという恋人がいた。

 

ジェラールはバルタザールを借りて仕事をするが何かにつけて当たり散らす。そんな姿を冷たく見つめるバルタザールの目には、周りの人間たちの赤裸々な姿が見えて来る。

 

自尊心の塊のようなマリーの父はあらぬ疑いをかけられ裁判で負けて一文なしになるし、村のアル中の男はバルタザールを引き取るも自分がどうしようもなく、村人から蔑まれるが、遺産を受けることになり酒を浴びるものの、一方で殺人の疑いなどをかけられる。

 

ジェラールたち不良仲間は、陰で様々な悪事を行い、そんな彼らに決着をつけようとしたマリーは裸にされて晒者にされる。ジャックがマリーの元に帰ってくるが二人の間には埋められない何かが存在した。

 

ジェラールはバルタザールに盗んだ品物を積んで逃げようとするが追っ手に迫られる。逃げるジェラールらを見下ろすバルタザール。その足には銃弾が当たっていた。翌朝、羊たちの群れの中で静かにバルタザールは死んでいき映画は終わる。

 

人間の愚かさをロバとマリーの数奇な運命の中に描いた作品だが、途中出てきる人物やエピソードの説明シーンを全て省略した演出なので、物語を探していると訳がわからなくなる。これは映像で語る作品だと理解するまで少し時間がかかってしまいました。正直しんどい映画でした。

 

ストックホルム・ケース」

犯人に親密感を持ってしまうというストックホルム症候群の語源となった銀行強盗事件の実話を元にしたものですが、特に工夫も何もないので、ただトンマな犯人の映画にしか見えなかった。主人公ラースを演じたイーサン・ホークのちょっとオーバーアクトな演技が作品を陳腐にした感じです。監督はロバート・バドロー。

 

一人の女性ビアンカが、かつて経験した人質事件で何故か犯人に好意を持ってしまったとつぶやく場面から映画は過去に戻る。ラースがいかにもアメリカンな格好でストックホルムの最大の銀行を襲撃するところへと続く。

 

いきなり人質を取り、余計な人は外に出して、行員二人だけを拉致、仲間で刑務所にいるグンナーを連れてこいと要求する。そして、やってきた旧知のグンナーと人質三人と立て篭もる。

 

なかなか要求を聞いてくれない警察に対し、ラースはビアンカに防弾チョッキを着せて、警官の前で撃ち殺したように偽装する。そして進展したかに思えたが、次々と難題がふりかかる。やたら喚き散らし、失敗を繰り返すラースのキャラクターが、肝心のラースとビアンカに芽生える愛情を殺してしまった感じになり、肝心のテーマがぼやけてしまった。

 

そして逃走用の車に向かうラースたちだが、車のタイヤが撃たれて、一方でビアンカの偽装もバレて、ラースたちは逮捕される。刑務所に入ったラースにビアンカが面会にきて映画は終わっていく。まあ、普通の出来栄えの映画でしたが、作りようによっては面白くなりそうでした。