くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「人妻椿 前篇」「人妻椿 後篇」「暖流」(再編集版 吉村公三郎監督版)

「人妻椿」(前篇)野村浩将監督版

次から次へと間断なく不幸に見舞われていく主人公の物語は、退屈しないと言うより、突っ込んでしまうくらいだが、娯楽映画としては良くできているのかもしれません。戦前の昭和11年の映画なのにテンポがとっても良い映画です。監督は野村浩将

 

順風満帆の矢野家の夫婦と息子の姿から映画は幕を開けます。矢野を孤児院から救い出して今の地位に育てた恩人の有村社長は、ある男に贈収賄の証拠を突きつけられ、思わず銃で撃ち殺してしまいます。それを、恩のある矢野昭が身代わりになり、大陸へ逃亡。残された妻嘉子と息子を有村社長は面倒を見ると約束するが、俄かに死んでしまう。

 

経緯を知らない有村家の長男夫婦は、嘉子に冷たく当たるが、長男は色気を出して、矢野の夫昭は大陸で瀕死の状態だと言う偽手紙を情婦にせんと金を貸したり店を持たせたりする。しかし、裏を知った嘉子は逃げる。ところがここに、彼女を女優として認めた草間という金持ちの男がいた。有村家の長男も、会社のために妹を草間と結婚させようと画策しているが断られる。

 

一方未亡人となった嘉子は、実家の父を頼ってくるが、生活の苦しい父は網元の男に未亡人を引き合わせ、網元はその父を海で死なせてしまう。あわや網元に嫁がせられる嘉子だが、その村の和尚の計らいで脱出。

 

ところが、嘉子がビル火災に巻き込まれ、たまたま、網元と草間が、叫ぶ未亡人を発見し助けに入るというところで前篇が終わります。本当に、突っ込んでしまうくらい次々と不幸に見舞われていくのはある意味小気味良いですね。

 

「人妻椿」(後篇)

あれよあれよと言う間にラストシーンという駆け抜けるような仕上がり。カットしてるんじゃないかと思うほどに説明シーンはすっ飛ばしでしたが、まあ面白かった。監督は野村浩将

 

火事で焼け出された嘉子、そして彼女を助けるため重傷を負った草間と網元の病院での場面から映画は始まる。そして、退院した嘉子はかつての女中の家に厄介になるが、いづらくなり出ていく。しかし子供が肺炎になる。一方草間は、嘉子にお礼の金を渡すべく嘉子のいた女中の家を訪ねるが、すでに嘉子はいない。しかし三千円という金を女中に託しアメリカへ旅立つ。

 

一方嘉子は、生活のために芸者になる。そこで、かつて有村に殺されたギャングの兄貴分近藤というのに出くわす。そんな頃、嘉子の夫矢野は成功して戻ってる。そして、嘉子の女中も再び嘉子を見つけ、逃すために画策をする。ところが嘉子は、待ち合わせの駅に行けず近藤に連れ去られる。しかし、矢野は、有村に会い、成功して得た金を有村に託し、全てのことを水に流すと言うと、有村も改心する。そして、有村の事件の真相を明らかにして矢野の無実を証明する。やがて矢野も嘉子と会い、嘉子の実家で法事をする場面で映画は終わる。

 

とまあ、ドタバタのクライマックスですが、悪人が次々とあっさり改心すると言う流れもツッコミどころ満載、単純明快な流れなので、素直に主人公の行く末を追いかけることができるので肩が凝りませんでした。

 

「暖流」(再編集版 吉村公三郎監督版)

以前、増村保造版を見たことがあるが、こちらは現存するのはこのフィルムだけらしい戦前の吉村公三郎監督版。正直たんたんと流れる一昔前の恋愛ドラマという感じで、これと言うのめり込めるものはありませんでした。

 

大病院の院長の娘啓子が指の怪我で訪れる場面から映画が始まる。彼女に気がある笹島医師が担当。経営が傾いているこの病院の院長は日疋という男を立て直しのために雇い入れる。病で余命わずかを知った院長は病院をスムーズに引き継ぐべく雇い入れたのだ。日疋は、看護婦の一人石渡に声をかけ、病院内の人事の裏話を聞き取ることを始める。

 

しかし、いつのまにか石渡は日疋に仕事以上の感情を持ち始める。一方日疋は、何度も自宅に出入りするうちに院長の娘啓子を思うようになり、啓子も日疋のことが気になり始める。啓子に気がある笹島は啓子に結婚を申し込むが、女癖の悪い笹島を問い詰め、啓子は笹島から離れる。そんな頃、仕事が一段落してきた中で、日疋は啓子に結婚を申し込む。しかし色良い返事をもらう前に、啓子は石渡の日疋への気持ちを察し、自分は身を引くことを決意し、石渡の背中を押してやる。

 

石渡は病院を辞めたが、日疋の家を訪ねる。そこへ啓子にふられた日疋が帰ってくる。そして日疋は石渡と結婚を決める。仕事が最終段階に入り、別荘に住んでもらっている啓子とその母の元を訪ねた日疋は、夜明けの海岸で、石渡と結婚することに決めたことを啓子に話す。啓子は日疋に気づかれないように涙を流して映画は終わっていく。

 

吉村公三郎らしいシンメトリーでしっかりとした構図の画面を繰り返す映像は、品の良さを感じさせますが、物語にハリが生み出しきれず、ちょっと退屈な流れになった感じです。二部作で作られたものを再編集で一本にしたためにリズムが狂ったのかもしれないのは残念。