くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「愛染かつら」(新版総集編)「帰郷」(大庭秀雄監督版)「夢みるように眠りたい」

「愛染かつら」(新版総集編)

前篇、後篇、続篇、完結篇を再編集してまとめたもので、幾度も映画化されている最初の映画です。これということもなく、ただ、時代を楽しむ一本でした。監督は野村浩将

 

主人公かつ江が娘と散歩しているシーンから、独身であることが条件だという看護婦たちからの責めに切々と事情を話す冒頭場面、そして病院の御曹司の博士号取得のお祝いで歌を歌う場面につながる。

 

あとは、愛染かつらの木で愛を誓い合うものの、ふとした行き違いから誤解が生まれ、やがてクライマックスのハッピーエンドに流れていく。当時熱狂したであろうすれ違いの恋愛劇と、当時モダンであった恋愛の夢物語の組み合わせに、ノスタルジックな感動を覚えてしまいました。一世を風靡し、時代を翻弄させたほどのこういう古い映画は本当に良いです。

 

「帰郷」

これは良かった。単純な人間ドラマ、人生ドラマなのにここまで胸に迫ってくるのはどういうことだろう。主演の佐分利信のの圧倒的な演技力もさることながら、周辺の人物がなんとも言えない世界を構築していく。これこそ日本映画全盛期の力量というものでしょう。ラストシーンにはなぜか胸が熱くなって動けなくなってしまいました。名作。監督は大庭秀雄

 

時は1944年のシンガポール、一人の水商売の女性左衛子がルーレットをしている。隣に中国人風の男守屋が座っている。どこか守屋が気になる左衛子だが、彼は危ない人物だからと友人に教えられる。しかし、まもなくして、左衛子は守屋を紹介される。守屋は実は日本人で、海軍にいるときに不正の責任をとって海軍をやめ、逃亡生活のようなことをしていた。本国日本には妻も娘もいるが、行方不明の守屋はすでに死んだことになっていて、墓もあるという。そんな守屋と左衛子は一夜を過ごす。やがて終戦となる。

 

時は1947年、東京で水商売を始めた左衛子は、たまたま守屋伴子という女性と知り合う。それはシンガポールで一夜を共にした守屋の一人娘だった。左衛子は守屋が日本に戻っていること、しかも妻や伴子にも会っていないことを知る。伴子の母節子は隠岐という政治家志望の野心家とすでに結婚していた。隠岐も決して悪い人間ではないものの、伴子は守屋の日本での居場所を左衛子の店で働く男に突き止めてもらう。

 

伴子は左衛子と共に京都にいる守屋を訪ねる。左衛子は会わず、伴子だけが守屋と会い、守屋が父であるとわかる。そして食事だけして、タクシーで駅に向かう。このタクシーの中の守屋と伴子の会話シーンが素晴らしい。さりげないやり取りなのに、佐分利信の演技力の迫力でじわじわと父親としての存在感が伝わってくる。

 

東京に戻った伴子は父や母に責められるも守屋に会ってきたとは言わない。左衛子はあの時、守屋に会えば良かったと後悔している。そんなとき、伴子の今の父隠岐の講演の場に守屋が現れる。隠岐は守屋が現れたことは何もかもに悪い方向に進むかのように嗜める。それは決して責めているわけではなく、その言葉に守屋も自らの居場所はすでに日本にないことを知る。そして、日本を離れることを決心するが、最後の夜、左衛子が守屋を訪ねる。そして自分も連れていって欲しいという。守屋はカードで左衛子の気持ちを汲むかどうか決め、そして負けた左衛子は残らざるを得なくなる。そのゲームは守屋のイカサマだった。

 

守屋は自分の墓に参ったあと日本を後にする。こうして映画は終わるが、その余韻の深さにしばらくは感動が消えない。墓地をさる守屋の姿、その背中に、戦争が起こした悲劇が浮かび上がってくるのである。まさに名作。その名にふさわしい作品でした。

 

「夢みるように眠りたい」デジタルリマスター版

以前から見たかった一本に、ようやく見ることができました。登場人物の台詞はサイレントで、効果音や背景の人物の言葉だけがトーキーで聞こえるという、ちょっと自主映画のような作品、林海象監督長編デビュー作です。

 

怪盗黒頭巾のチャンバラシーンを撮影しているような場面から映画は始まる。しかしこの作品「永遠の謎」は警視庁の検閲によってラストシーンが撮影されず、幻となった。

 

時は昭和初期の東京に移る。私立探偵魚塚のところに、月島桜と名乗る老婆から娘の桔梗が誘拐されたと電話が入る。最初は取り合わなかったが、執事らしい老人が現れ、身代金と捜査費用を手渡され、魚塚は助手の小林と捜査に乗り出す。しかし、最初の謎が解けたかと思うと桔梗は姿を消し次の身代金と謎が残される。魚塚は謎を解いていきながら、次々と追加される身代金を持って桔梗を探すが、いつのまにかドラマのように出来すぎていることに気がつく。

 

そして、ついに追い詰めた魚塚だが、そこには「永遠の謎」の撮影のクライマックスと重なっていた。さらに、月島桜こそ桔梗であり、自分の幻の映画を完成させるべく桜が計画した事件だとわかる。こうして目的を果たした桜は命を閉じていく。

 

シュールな中に、昭和初期のノスタルジーをあちこちに散りばめ、感性の全てを注ぎ込んだような自主映画的な作風はなかなか近年見かけなくなった映画です。決して劇的でもなんでもないのですが、映画ファンとしてみて良い一本だった気がします。