くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「どん底作家の人生に幸あれ!」「影の車」

どん底作家の人生に幸あれ!」

ディケンズの「ディヴィッド・コパフィールド」を原作にした映画ですが、最初は面白いのか面白くないのかわからないままに入り込むのですが、いつの間にか主人公の波乱万丈の人生に翻弄されながら見入ってしまいました。現実か幻想かわからない映像作りがなかなかテンポ良くて、ラストの締めくくりまで綺麗にまとまっている上に次から次とでてくる登場人物も整理されている。監督はアーマンド・イアヌッチ

 

作家であるディヴィッドが舞台上で自身の作品を披露する場面から映画は始まり。それが自身の実話なのか創作なのかわからないオープニングから、ディヴィッドが生まれた日に物語は遡る。金持ちの伯母トロットウッドや、医師、看護婦が駆けつけてくる。世話をする女中のベゴディが右往左往する中生まれたのは男の子。彼はディヴィッドと名付けられる。まもなくして母は新しい男性と再婚、ところがその継父はディヴィッドを暴力的に躾けた上、ビン工場へ追いやってしまう。

 

虐げられ、こき使われるディヴィッドはまもなくして青年となる。あまりの仕打ちに反抗し工場を飛び出したディヴィッドはトロットウッド伯母を頼ってくる。そしてそこで名門校に通い、ミコーバー教授や親友になるスティアフォースとも知り合い、恋人もでき法律事務所の職も得、順風満帆に行くかと思われたが狡猾なヒープにはめられて伯母も没落、ミコーバー教授は債務不履行犯罪者となり、再びどん底に落ちていく。

 

ディヴィッドはスティアフォースを連れて、懐かしい船の家にやってくるがスティアフォースはその家の娘と駆け落ちしてしまう。ディヴィッドはロンドンへ戻るが、ヒープはまんまとウィックフィールドの事務所を乗っ取ってやりたい放題していた。しかし、ウィックフィールドに勤めるアグネスの起点で、ヒープの罪を暴き、ディヴィッドらは元の資産を取り戻す。そんな頃スティアフォースは娘を捨てたものの船の家のある入江に戻ってくる。ところが嵐にあい死んでしまう。

 

こうしてディヴィッド・コパフィールドの波乱万丈の物語は何もかもうまくいき本も売れて平和をとりもどす。場面は冒頭に戻り拍手喝采の中映画は終わる。

 

劇中劇のようなオープニングから、フィクションか現実かの狭間を行き来するような絵作りが秀逸で面白い。ラストまで二転三転の人生が描かれるが、あまり陰気にならずにテンポ良く流れていくのがとってもいい作品で、ちょっとした佳作という仕上がりでした。

 

影の車

四十年ぶりくらいの見直し。原作松本清張、脚本橋本忍、監督は野村芳太郎。まさに黄金トリオの心理サスペンス映画の傑作。不気味な空気がラストまで画面から消えることなく、川又昴の見事なカメラ、そしてフィルムとしてカラーの分解処理された美しい映像が物語を引き立てた仕上がりは見事でした。

 

旅行会社に勤める浜田幸雄は、ある日通勤のバスの中で幼馴染の小磯泰子と出会う。何気ない挨拶程度だったが、偶然が重なり、息子と二人暮らしの小磯の家に浜島は入り浸るようになって、どんどんのめり込んでいく。浜島の家庭は妻の啓子が花の先生をしていて普通の毎日だったが、子供もできず、ややマンネリ化していた時期でもあり、幸雄は泰子と逢瀬を重ねるが、6歳の息子健一が自分に敵意を持っているのではないかと疑い始める。

 

猫いらず入りの饅頭を食べさせられそうになったり、閉じ込められてガス中毒を起こさせられそうになったり、それは幸雄の被害妄想だったのかもしれないがそんなことが次第に心の中で膨らみ、正月明けから泰子の家から遠ざかっていたが、泰子に問い詰められ疑いも晴れたと感じた幸雄は年初めに泊まり込みで泰子の家に行く。その夜の明け方、トイレから出てきた幸雄をナタを持った健一が待っていて、襲われると思った幸雄は健一に飛びかかる。

 

健一は気を失った程度で助かったが、殺人未遂で幸雄は逮捕される。取り調べで幸雄の主張は健一に殺されるということだったが刑事は信用しない。しかし、幸雄には6歳の少年の殺意は現実的なものだった。それは自分が6歳の時母の愛人を故意に殺した過去があったからである。こうして映画は終わる。回想シーンが映像処理されて美しい画面になる一方、現代の場面は紅葉シーンなど見事な色彩で描かれている。現実に誰も死んでいないので、初めてみた時は拍子抜けした気がするけれど、なかなかのクオリティの名作だと改めて感じました。