くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恋におちたシェイクスピア」「月の満ち欠け」

恋におちたシェイクスピア

ロードショー公開以来の再見、ほぼ二十年ぶりです。公開当時はこの映画の本当の良さをわかっていなかったみたいです。こんなに素晴らしい映画だったのかと改めて圧倒されてしまいました。出だしからラストまで一瞬の隙もなく描かれた脚本と演出に息を呑みます。これこそ名作と太鼓判が押せる映画でした。素晴らしかった。監督はジョン・マッデン

 

ローズ座とカーテン座という二つの芝居小屋、マーロー率いるカーテン座は人気を博していたが、ローズ座は資金難で、この日も小屋主に興行師が責められている場面から映画は始まる。興行師は、お抱えの作家シェイクスピアからの次の作品に全てがかかっていたが、シェイクスピアは、このところスランプだった。

 

ここに、裕福な家の娘で、芝居が何よりも好きで、役者になれるなら全てを捨ててもいいと思っている娘ヴァイオラがいた。当時の演劇では、女性が舞台上に上がることは御法度とされていた。舞台を楽しむヴァイオラは嬉々としていたが、エリザベス女王もこの日芝居を見にきていたが、いつもながらの芝居に少々辟易としていた。

 

ローズ座は小屋主にさらに追い詰められ、興行師は、シェイクスピアの軽口に乗せられ、先走って、大音声で次の芝居の役者を募集する。大勢の役者志望が集まってきたが。どれもヘボ役者だった。すっかりやる気のないままオーディションを見ていたシェイクスピアは、一人の青年の演技に魅了される。その男はトマスと言ったが、オーディション会場のドタバタの中姿を消してしまう。必死で追いかけたシェイクスピアはある屋敷に消えた青年に向けて手紙を残してさる。

 

やがて、シェイクスピアが書き始めて芝居の稽古が始まり、トマスも稽古に参加する。しかし、トマスを屋敷まで船で送ったシェイクスピアは、船頭がつい呟いた言葉に驚愕する。トマスはこの屋敷の娘ヴァイオラだというのだ。この日、ヴァイオラを妻にせんとするウェセックス卿を交えてのパーティがあり、その会場へ入ったシェイクスピアは、そこで、ヴァイオラと踊り彼女であることを確認した上で口づけをする。その際、ウェセックス卿に咎められたシェイクスピアは、ついライバルのマーローの名前を騙ってしまう。

 

シェイクスピアヴァイオラの恋はみるみる燃え上がるが、ウェセックス卿との結婚の日が迫ってくる。舞台の方は、当初喜劇のはずだったが、みるみる恋愛劇へと変化し、さらに悲劇の結末へと進んでいく。シェイクスピアをマーローという名前だと思っているウェセックス卿は嫉妬に狂い居酒屋でマーローを刺し殺してしまうが、その頃、シェイクスピアはトマスや役者たちと居酒屋で飲んでいた。

 

自分の嘘から、他人を殺してしまったと嘆くシェイクスピア姿をくらましてしまう。一時はシェイクスピアが殺されたと嘆くヴァイオラだったが、教会で真実を知る。しかも、マーローはウェセックス卿に殺されたのではなく、自らの事故で死んだのだ。気を取り直したシェイクスピアは、やがて舞台の稽古も終盤を迎え、演じる役者たちも今回の演目「ロミオとジュリエットの悲劇」にのめり込んでいった。ところが、楽屋でシェイクスピアヴァイオラとキスをしているのを不良少年に覗かれ、宮内庁官吏に告げ口される。

 

トマスが実は女だとバレたことで、ローズ座は閉鎖され、公演は中止となるが、カーテン座のバーマンは、政府のやり方に反抗、カーテン座を使うようにと提案する。やがて初演の幕が上る。この日は、ウェセックス卿とヴァイオラの結婚式の日だった。ロミオ役はシェイクスピア自らが演じるがジュリエット役の男優が突然声変わりしてしまう。公演中止かと落胆するシェイクスピア。そんな頃、舞台を見たい一心でヴァイオラは、乳母の計らいで式場を抜け出しカーテン座に向かっていた。そして客席に入り込んだヴァイオラに、ジュリエットとして出演してほしいと声がかかる。

 

ジュリエットの初登場の場面、落胆するシェイクスピアの前に躍り出たのはヴァイオラだった。そして、舞台は順調に、しかも、本当の恋人同士としてシェイクスピアヴァイオラの物語が進んでいく。しかし、聞きつけた宮内庁官吏たちが迫っていた。なんとか最後まで演じきり、客席の大拍手の中、官吏たちが舞台に登り、全員逮捕すると声をあげるが、そこへエリザベス女王が現れ、その場を見事に収め、帰りにヴァイオラに、ウェセックス卿との婚礼をやめさせることはできないと促す。

 

ヴァイオラシェイクスピアに別れを告げて、ウェセックス卿の船に乗る。一方シェイクスピアは、次の作品「十二夜」を書き始めていた。その冒頭で、船が沈み一人助かったヴァイオラは、浜辺に降り立ち、陸地へと進んでいく。カメラがヴァイオラの後ろ姿を捉え俯瞰にひいていって映画は終わる。

 

とにかく、緻密すぎる脚本に頭が下がります。物語の隅々まで手を抜かずに描かれる展開も素晴らしいのですが、ストーリー展開のリズムが実に完成度が高く、気がつくと終盤を迎えているという絶妙の流れに圧倒される出来栄えになっています。それぞれの登場人物の描写も厚みがあって、誰一人無駄にしていないし、最後の最後まで観客の目を釘付けにする映像が素晴らしい。これが名作というものでしょう。本当に見直してよかった。

 

「月の満ち欠け」

輪廻転生というものを、ストレートに普通にひたすら台詞で説明していく作品で、どこをとっても深みがなく、お話は二転三転する内容ながら胸に全然響いてこない。映画は映像表現が命だということをそっちのけにしたとしか思えない出来栄えで、ちょっとこれはいけませんね。監督は廣木隆一

 

2007年青森県八戸市の港で仕事をする主人公小山内堅の姿から映画は幕を明けます。自宅に戻り、何やら絵を持って東京へやってくる。その絵は、娘の瑠璃が高校の頃描いたもので、のちにわかるが三角という青年の絵だった。ホテルのレストランで、娘瑠璃の友達のゆいが一人娘を連れてきて小山内堅と話を始める。時は1980年、小山内堅は大学の学食で知り合った梢と結婚する。翌年、娘が生まれるが、梢は夢で瑠璃という名前にしてほしいと聞いて娘に瑠璃と名づける。

 

三人は幸せな日々を暮らすが、瑠璃が7歳の時高熱を出す。しかし熱が下がってから、瑠璃は大人顔負けの絵を描いたり、オノヨーコの英語の歌を口ずさむようになる。買ってもらったぬいぐるみにアキラくんと名づけたりする。さらに一人で高田馬場レコード店まで出かけたりする。1999年、瑠璃は高校生になっていた。この日三人で八戸に行く予定が立っていたが、仕事中の堅に警察から連絡が入る。梢と瑠璃の車が交通事故に遭い、二人は亡くなったという。

 

葬儀も終わり一段落した小山内堅のところに一人の青年、三角哲彦が訪ねてくる。梢と瑠璃は自分に会いに車を飛ばしていて事故にあったのだという。そして、三角はかつて自分がレコード店でバイトをしていた時出会った一人の女性の話を始める。その女性は、レコード店の前で雨宿りをしていて三角と知り合い、まもなくして二人は恋仲になるが、その女性は何かにつけて三角から離れるような雰囲気を繰り返したのだという。彼女は三角のことをアキラくんと呼んでいた。彼女の名前は瑠璃と言った。彼女は肩に傷があり、オノヨーコの歌が好きでいつも口ずさんでいた。

 

結婚しているらしいこと、そして夫との関係で寂しい思いをしているとわかった三角は、自分が守るから一緒にいてほしいと瑠璃にいうが瑠璃は三角の元を去っていく。しかし、三角は、駅前でいつまでも待っているからと告げる。そして、駅前で瑠璃を待っていた三角は、踏切で人身事故があったというアナウンスを聞いて嫌な予感がし、事故現場に向かい、瑠璃が亡くなったことを知る。

 

ゆいは小山内堅にさらに話をしていた。三角が愛した瑠璃の夫は小山内堅が上司に頼まれて一緒に仕事をしていた正木であった。かつて正木は、アクセサリー店で働く瑠璃に惚れて結婚をした。最初は幸せな日々だったが、子供ができないと知った日からそれとなく冷たくなり、暴力的になっていく。そんな頃瑠璃は三角と知り合った。たまたま朝帰りをした日、夫の正木に問い詰められた瑠璃は手紙を残して家を出るが、正木が後を追ってくる。必死で逃げる瑠璃は、踏切で鞄を拾おうとして列車に轢かれてしまう。

 

生活が乱れた正木を助けたのが大学の先輩である小山内堅の上司だったのだ。小山内堅は時に正木を自宅に連れてきたが、堅の娘の瑠璃は一眼で正木が前世の夫であることを知る。一方、正木も小山内堅の娘の瑠璃は前世の自分の妻であることを確信し、ある時、瑠璃の下校の時に声をかけて、連れ帰ろうとする。その時はゆいの機転で逃げられたが、瑠璃は梢に頼んで、三角に会いに行きたいと言う。自分に危害を加えようとした正木が三角にも迫ることを警告しようとしたのだ。

 

ところが、梢と瑠璃の乗った車を、正木の車が追ってくる。そして、急ハンドルで交差点を曲がった梢たちの車にトラックが突っ込んできた。こうして梢と瑠璃は亡くなってしまう。そこまで話したゆいは、連れてきた自分の娘の名前も瑠璃なのだと小山内堅に打ち明ける。梢と同じく、夢で名前を瑠璃にしてほしいと言われたのだそうである。かつて小山内の娘の瑠璃も好きだったどら焼きを頼み、一人で高田馬場に行った時の言葉を再現して、半信半疑で必死で拒もうとする小山内堅も、とうとう、ゆいの娘の瑠璃を抱きしめる。

 

瑠璃は、三角に連絡を入れ、駅で待ち合わせをしたからと一人で待ち合わせ場所に向かう。そして、そこで三角と再会する。一方、小山内の母の介護をしている女性が小山内を出迎える。彼女にも娘がいた。車の中で、その娘は梢と同じ仕草をする。八戸に戻る列車の中で、小山内堅はゆいが小山内の娘の瑠璃から預かったビデオカメラを見直しす。たまたま自分が席を外していた時に梢が話している。堅が梢に一目惚れしたかのようにであったことになっているが、実は、もっと前から自分は小山内堅の事が好きだったのだと語っている。小山内堅の涙ぐむ姿でエンディング。こうして映画は終わっていきます。

 

とにかく、真相を台詞で全て説明していくと言う作りになっているので、確かにわかりやすいが、映画自体がものすごく薄っぺらいものに仕上がってしまっています。もっと編集や映像を駆使して描いてくれれば、行間が読めて胸に迫ってきただろうに、あまりに安直な脚本が実に残念です。いいお話のはずが深みのないお涙頂戴ドラマに仕上がった感じの一本でした。