くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画館「ニンフォマニアックVol.1」(ディレクターズカット完全版)「Pearlパール」

ニンフォマニアックVol.1」

日本公開版より約30分長いオリジナル版。あの30分はこの映画には必要だったのだと改めてわかりました。今回の完全版で、映画全体のリズムと映像のテンポが整った気がします。執拗に女性器を舐めるシーンや、ペニスを咥えるシーンが初公開版ではあそこまで長くなかった気がしますが、いずれにせよ、今回のバージョンでこの映画の凄さを実感できたのは良かった。監督はラース・フォン・トリアー

 

薄暗い路地、突然激しい音楽と共にカメラが引いていくと一人の女性ジョーが倒れている。雪が降り、いかにも寒い夜で、彼女をセリグマンという中年男性が発見、救急車を呼ぶという提案にジョーは頑なに拒否し、紅茶が飲みたいという。セリグマンはジョーを自室に連れていって着替えさせベッドに休ませる。紅茶を持ってきたセリグマンに、ジョーは自分はインフォマニアック=色情狂であることを告白し、幼い頃から性器に興味を持っていたと赤裸々なこれまでを語り始めて映画は始まる。

 

全体が五章に分かれ、第一章はセリグマンの部屋の壁にあったフライの話から、釣具の話に絡めてジョーの過去が語られる。父は産婦人科医で、母は家庭や家族を顧みない人だった。そんな家庭のジョーは幼い頃から、SEXに興味を示し、友達と性器を刺激する遊びに興じる。父は自然が好きで、公園の木々の話をジョーにし、そんな父がジョーは大好きだった。やがて成人したジョーはジェロームという青年に処女を奪って欲しいと懇願して、性行為を行う。その際、アヌスにも挿入され、苦痛だけが彼女に残る。

 

第二章、友人と列車に乗り、列車の中で何人の男性を誘ってSEXできるかを競争をする。その友人はSEXに関しての遊びをするサークルを立ち上げるが、彼女が結局普通の恋人とのSEXに興じることになり、ジョーは彼女の元を離れる。

 

第三章、ジョーは仕事を探し、秘書の仕事に応募した会社でジェロームと再会する。彼は入院している代表の叔父の代わりに社長代行の仕事をしているのだという。ジョーは密かにジェロームのことを慕っていたのかも知れず、次第に接近していくが、ある日、彼は秘書のリズと結婚した挙句突然姿をくらましてしまう。

 

第四章、ジョーの父は余命わずかな病気で入院していた。彼を見待ったジョーだが、父はせん妄で、幻覚を見て叫ぶばかりだった。時々正気になり、ジョーと幼い頃の話をしたりする。ジョーは衰えていく父を見るのに耐えきれず、病院の職員らしい男達とSEXを繰り返す。やがて父は亡くなってしまう。

 

第五章、ジョーは緻密なスケジュールの中、大勢の男達と日々のSEXに興じていた。セリグマンはSEXはバッハの曲の如しだと比喩する。ジョーはSEXを繰り返さざるを得ない体だったのである。時間通りにやってくる小太りの男性は優しくジョーに接し、股間を丁寧に舐めたりする。強引でわがままな一人は散々ジョーを焦らせた挙句、行為に及んだ。妻子ある一人の男性はジョーにのめり込み、ジョーが家庭を捨てないあなたとはこれっきりにしたいと言った矢先、離婚して戻ってくるが、妻子がジョーの部屋にやってきて、嫌味とも取れる執拗なまでの嫌がらせをする。次の約束の男性が来ても動じずに責め立てた末に出ていく。その後もジョーは大勢の男達とSEXを繰り返していくが、そんな時、妻と別れたジェロームと再会する。ところがある時、SEXをしていたジョーは突然何も感じなくなってしまう。感じなくなった!と叫んで映画が終わる。

 

正直どの部分がカットされていたのかはっきり覚えていないけれど、30分カットしたために、セリフによる語りだけの退屈な作品になった気がします。確かに過激な場面が散りばめられているとはいえ、映像で語るという演出がされているので、映画全体のリズムが整えられたようにおもいます。個性的な作品ですが、ラース・フォン・トリアーはやはり只者ではないです。

 

「Pearl パール」

「Xエックス」の前日譚。今回は、映画産業黎明期の雰囲気の絵作りがおもしろく、一昔前の映画を見ているような空気感が楽しかったのですが、いかんせん脚本が悪く、主人公パールが変わっていく姿がかなり無理矢理感があるし、うじの湧いた豚肉などホラーテイストの小道具が、いかにもなわざとらしさだけで、物語に何の色合いも添えてこない。しかも、クライマックス、全ての思いをセリフだけで語り尽くすという長台詞ワンシーンは、どうにもよくない。全体にエピソードの配分も良くないのか、退屈さまで感じてしまったのは残念。でも、映像演出へのチャレンジ精神あふれる画面はとっても好感だし、前作ほどの完成度の出来栄えではないけれど、駄作ではなかった気がします。監督はタイ・ウェスト。

 

真っ暗な画面からシンメトリーに捉える小屋の扉が左右にパッと開かれ、主人公パールが鏡の前で、まるでハリウッド全盛期の女優よろしく踊り始めるオープニングが上手い。そこに母親ルースがやってきて、ルースの服を着ていたのを咎められ、パールは一気に小さくなってしまう。懐かしいロゴと構図のオープニングタイトルが流れ、「オズの魔法使」の出だしのような農場の景色が広がる。

 

パールは、生活が苦しいために何かにつけ厳しい母、車椅子で何事も介助なしに過ごせない父と三人で暮らしておる。夫は戦地へ行ったままである。パールがいつものつなぎに作業服で小屋でダンスをしていると鵞鳥が入ってきたので、干し草フォークで突き殺し、近くの沼に住むワニに食べさせる。

 

パールは父の薬を買いに街へ行ったついでに映画を見る。その帰り、イケメンの映写技師に呼び止められ、いつでも見にきたらいいと言われ、フィルムの断片をプレゼントされる。

 

帰り道、パールは映写技師にもらったフィルムを風で飛ばされ、それを探しにトウモロコシ畑に入り、そこにあったカカシとダンスをし、SEXまがいの行為をしてしまう。この場面、面白いのですが、かなりあざとい。

 

夫の実家は金持ちらしく、夫の妹ミッツィが母と訪ねてきて、豚の丸焼きを持ってくるがルースは施しはいらないと断り受け取ろうとしない。ミッツィ達は豚肉を玄関に置いて帰るが、ミッツィはパールに、教会でダンスのオーディションがある事を教える。パールは深夜に映写技師を訪ね、秘蔵のフィルムを見せてもらうが、それはいわゆるブルーフィルムだった。「X」の伏線です。

 

翌日、夕食時、ルースに、映画に行った事を責められ、つい言い争いになって、暖炉の火がルースに燃え移る。パールは慌てて煮上がっているスープをかけたのでルースは大火傷を負う。パールはルースを部屋に隠し、雨の中、映写技師を訪ねて一夜を共にする。翌朝、オーディションの日で、パールは映写技師に送ってもらうが、映写技師が玄関に行くと、うじの湧いた豚肉に目が止まり、父親を紹介されるがどこかおかしい。不気味に思った映写技師が帰ろうと車に乗ると、パールがほし草フォークで襲いかかり突き殺してしまう。そして、車ごと沼に沈める。

 

オーディションの日、父に袋を被せて殺してしまい、地下室の母も力尽きて死んでしまった。オーディションにやってきたパールはミッツィと順番を待つが、結局パールはオーディションに落ちてしまう。ミッツィはパールを送って家にくるが、玄関の豚肉を見て不吉に思う。そして、パールに自分を兄だと思って思いの丈を話すように促すと、延々と恨みつらみを語るパール。怖くなったミッツィが帰ろうとすると、オーディションに合格したのでしょう?と詰め寄ってくるパール。

 

ミッツィは逃げるように家の外に出ると、ほし草フォークを持ってパールが追いかけてきて、殺され、バラバラにされてワニの餌にされる。しばらくして、夫が戦地から帰ってくる。リビングに入ると、腐った父と母に愕然とする。そこへ料理を持って満面の笑みでパールが現れる。延々としたエンドクレジットの間、作り笑いのパール。そして目から涙が流れる。こうして映画は終わる。

 

一昔前のレトロ感満載の演出が実に面白い作品なのですが、ホラー映画の作劇としては、ちょっと無理が散見されるのは残念でした。カルト映画として評価してもいいかもしれませんが、こんな映画を作ってやろう感満載の気迫はとっても良かった。