くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ノクターン」「エレメント・オブ・クライム」(4Kデジタル修復版)

ノクターン

ラース・フォン・トリアー監督が学生時代に作った8分の短編。一人の女性がこちらに向いてのバストショットから、突然背後のガラスが割れて、男がスローモーションで入ってくる。ベッドで眠ろうとする主人公らしい女性のショット、電話で朝のバスに乗るのかどうかという問い掛けがあったようで、ビルの屋上に上がった主人公が空を仰いで映画は終わる。正直、何かを掴もうとした途端に終わるので、結局何かわからなかった。

 

エレメント・オブ・クライム

目眩くようなカメラワークで陶酔感に引き込まれてしまう幻想的な作品で、主人公が催眠術で過去に戻っての物語なので、非現実な映像やオブジェ、突然現れる人物などに翻弄されながら、これは幻覚なのだからと言い聞かせて最後まで物語を追っていく作品だった。さすが長編デビュー作だけあって、チャレンジ精神と個性の塊の一本ですが、可能ならもう一度見たくなる魅力も秘めている。面白い一本です。監督はラース・フォン・トリアー

 

フィッシャー刑事が、頭痛に悩まされ、眠ることもできないと精神科医の元を訪れる。医師は太っていて肩に猿が乗っているといういかにも異様な姿で、フィッシャー刑事に催眠術を施して三ヶ月前に戻る治療を提案、フィッシャー刑事が催眠に落ちていって物語が始まる。

 

13年ぶりにカイロからヨーロッパにやってきたフィッシャー刑事は、恩師でもあるオズボーンを訪ねる。オズボーンは犯罪に関する理論を打ち立てていて、それを説明されるフィッシャー刑事にクレイマー署長から、少女のバラバラ殺人事件が起こったという連絡が入る。少女は宝くじ売りをしていたらしく、殺されてからガラス瓶でバラバラにされたのだという。

 

現場に駆けつけるフィッシャー刑事の車はボロボロで、何やらカビのような物がこびりついている。川だろうか、馬が沈んでいて引き上げている。岸には様々な人間がいる。全てフィッシャー刑事の幻覚なのだろう。フィッシャー刑事は、犯人を捜査するうちに、ホテルに泊まったであろうハリー・グレイという人物に行き着く。

 

ハリーの行動を追っているうちにいつの間にか自分がハリーになったかのようになり、彼が出会ったキムという娼婦と犯人の足取りを追っていく。犯人に同化して犯罪の真相に迫る手法はオズボーンが理論づけた捜査の手法だった。しかし、次第にフィッシャーはハリーとの境目が混濁し始め、自らが少女惨殺の殺人鬼であるかのように重なっていく。

 

オズボーンの孫の少女を預かるが、突然、少女が窓ガラスを破って飛び出そうとするのを引きづり戻して首を絞めてしまう。それは、娼婦のキムを罵倒した後、キムが窓を破って逃げ出そうとした時の行動と重なる物だった。

 

クレイマーからの連絡で、オズボーンは、犯罪学を突き詰めるうちに、殺人鬼がやり残した犯罪に終止符を打つべく自ら首を吊って死んだことを知らされる。その衝撃に打ちのめされるフィッシャー刑事は、もう目を覚ましたいと医師に訴えて映画は暗転して終わっていく。

 

果たして、こういう理解で良かったのかどうかと自信はないけれど、たくさんの馬が沼に沈んでいたり、腐っていたり、丸坊主のホテルの受付の男達がいたり、港の巨大クレーンからダイブする人間達をクレイマー署長が押し留めようとしたり、海に坊主の男達が浮かんでいたり、突然、水に浮かぶ盥に少女が乗っていたり、カメラが流麗に空間を移動したり、俯瞰でヘリコプターからの映像シーンがあったり、とまさに自由奔放に縦横無尽に映像が展開する様は癖になる魅力に満ちています。映像はハロゲンライトの灯の如く黄色に染まっていて、時折、赤いオブジェが画面にスポットのように点在したりする。極端なスローモーションを駆使した幻想的な空気感も映画全体のリズムを不可思議な空間に変化させていくし、本当に、面白い映像なのですが、正直何度か気を失ってしまった。できればもう一回見たい。そんな映画でした。