くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「イノセンツ」「古の王子と3つの花」

「イノセンツ」

北欧ホラーらしい静かで淡々としたストーリー展開と、森の中の集合住宅という郊外の閉鎖的な舞台設定、じわじわと迫って来る恐怖の中に見える子供の残酷さ、そんな様々がシュールな衣を纏って流れていく様が独特の魅力のある映画でした。子供たちのキャラクター設定も上手いし、シンプルなホラーの陰に潜む現実とも非現実とも言えない空気感も良かった。監督はエスキル・フォクト。

 

父の仕事の関係でしょうか、郊外の集合住宅に引っ越しに向かう車の中、少女イーダのアップから映画は幕を開ける。隣の席には自閉症で言葉を喋れない姉のアナが乗っているが、何かにつけて両親はアナを気にかけるので、子供心にイーダは嫉妬心を持っている。家について、イーダはついアナの靴にガラス片を忍ばせたりするが、痛みを感じないアナは平気で靴を履いてしまう。

 

ある時、イーダは、同じ年頃の少年ベンに声をかけられる。森の中で一緒に遊ぶ中、ベンはキャップと落とすと、自分の思う方へ飛ばす事ができるとイーダに自慢する。もちろんイーダはする事ができない。猫=実はアイシャの飼い猫なのだが家を脱走していた、を拾ったベンは、イーダと住宅内の階段の上層階に行き猫を落とす。イーダたちが下に降りると猫はまだ生きていたので、ベンは猫の頭を踏みつけて殺す。

 

同じ集合住宅に、黒人の少女アイシャがいた。母と二人暮らしの彼女は人の心を読む事ができた。イーダがアナを外に連れて行ってほしいと母に言われて連れ出したが、ベンと遊び始める。その時、アイシャがアナに心で話しかけ、アイシャの話す通りにアナは話せるようになる。

 

イーダは家に帰って母にアナが話せるようになったというが信じてくれなかった。アナは離れた部屋からアイシャがコンタクトしてきて、アナの見るものをアイシャが感じて言葉を伝える事ができた。しかもアナにはベンと同じように物を動かす力もあるようで、フリスビーを回転させたりする。

 

イーダ、アナ、ベン、アイシャらは一緒に遊ぶようになるが、アイシャがベンのことを笑ったと言ってベンはアイシャに石を飛ばす。イーダは次第にベンのことが怖くなっていた。ベンがアイシャに力を送って胸を締め付けようとするがイーダはどうすることもできない、そこへアナが駆けつけるとベンはそそくさとその場を去ったりする。

 

ベンの力は次第に強くなり、以前、サッカーボールを取った年上の少年を見かけたベンは、住宅内に住む男を操ってその少年を殺させる。ベンの母がベンを叱って来ると、ベンは母の頭にフライパンを落とさせ気絶させ、シチューを鍋から足にかけて火傷させた上、そのまま放置して殺してしまう。

 

ベンが危険だと思ったイーダやアイシャは、ベンを倒そうと計画する。一方、ベンはアイシャの母を操り、アイシャを刺殺させる。イーダはなんとかしようとベンを呼び出して一緒に遊ぶふりをして陸橋の上から突き落とすが、その場を立ち去る際に車と接触して足を怪我してしまう。しかもベンは無事でその場を後にする。

 

イーダは、アイシャと同じく、母親を操られて殺されるのではないかと危険を感じる。窓の外にはじっとイーダの部屋を見つめるベンがいた。イーダはトイレに隠れるがアナは一人部屋を出てベンと対峙しに行く。イーダはアナの後を追いかける。住宅の敷地内の池を挟んでアナとベンが向かい合う。お互いの力が波紋と地面のざわめきで描かれて、一瞬の間の後、ベンがその場に倒れる。どうやらベンは死んだようである。

 

イーダの家、アナはいつものように落書き盤を無造作に書きつけている。イーダは母にしがみつく。突然アナの手が止まって映画は終わる。

 

ベンがアナの力に負ける際、周辺の子供達の視線や動きが硬直する演出がなかなかのもので、アナがみんなの力を集めたのか、子供たちが、悪の存在としてのベンを排除すべく心が動いた様を表現したのか、いずれにせよ、この映画のクオリティを一気に上げるラストシーンです。水で遊んでいたアナの水道の水が突然曲がったり、アイシャの向かいの母の額から血が流れたり、様々な描写が生み出す閑静な住宅地で起こった不穏なミステリーホラーという感じの面白い作品でした。

 

「古の王子と3つの花」

三つのおとぎ話のオムニバス形式ですが、イラストタッチのシンプルで美しい絵が素晴らしい作品でした。それぞれの話もロマンがあってとっても良かった。監督はミッシェル・オスロ

 

一人の女性が大勢の観衆を前にお話をせがまれている。どんな話がいいかと聞くとそれぞれ好みの話をリクエストするので、では三つの話をしましょうと物語は幕を開ける。

第一話 ファラオ

クシュ王国の王子はナサルサとの結婚を許してもらおうとするが、ナサルサの母はファラオでないと娘は嫁にやれないと言う。そこで王子はエジプトへ向かい、行く先々で神々に祈って祝福してもらいながら、戦わずして国々を納め、とうとうエジプトの首都メンフィスに辿り着く。エジプトのファラオが逃げでしまったのでそのまま王子はファラオとなりエジプトの王となる。そして、凱旋してナサルサの元にやってきて無事結ばれる。

第二話 美しき野生児

理不尽な領主を父に持つ少年はいつも地下牢のすぐ上の部屋で一人遊んでいた。たまたま地下牢に落ちたボールを下の囚人に投げ返してもらったことから囚人と親しくなり、囚人の頼みで牢の鍵を盗んで与える。囚人を逃した咎で領主は息子を森に追放して殺すように命令するが部下は少年を森に残すだけにした。やがて成人した少年は森で美しき野生児となって道行人から宝物などを奪うようになる。しかし、元々優しくて美しい野生児は人々に支持され、やがて領主の周りに誰もいなくなる。そんな時、公爵が攻めて来る。実は公爵は少年が逃した囚人だった。美しき野生児の手引きで領主の前に出た公爵は、野生児がかつての少年だと知る。公爵の子供は今は立派な娘になって、美しき野生児、かつて逃してくれた少年を愛していた。公爵は美しき野生児に娘を引き合わせ、二人は結ばれる。

第三話 バラの王女と揚げ菓子の王子

18世紀、王宮を追われた王子はバラの王女の国へ逃げてきた。そこで揚げ菓子屋に奉公することになるが、彼が焼いた揚げ菓子がバラの王女に気に入られる。なんとか二人で会いたいと考えた王子は、古い王宮のそばの城壁の近くに店を構え、地下道を掘って王女が準備した古い王宮の部屋に辿り着く。夜な夜な古い王宮から歌声や楽曲が聞こえてくると噂になり恐れられたが、王が古い王宮の部屋を調べに来る。そこで王女と揚げ菓子売りが会っているのを見て二人を牢屋に入れる。しかし、王子が地下道を掘るときに、途中にある牢屋にも入口をつけていたので、そこから二人は脱出、身の回りの宝石などを持って行商隊に紛れ込む。ところが途中、盗賊に襲われる。しかし王女の機転もあり、盗賊も捕まえ、行商隊の隊長からお礼に豪華な衣装をプレゼントされて、二人は幸せに結ばれる。

 

どれもこれも美しい色彩のアニメーションで、シンプルさの中に品のある絵と物語にひとときの夢の世界に浸ることができました。