くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「バラシファイト」「雌が雄を喰い殺す かまきり」「喜劇 各駅停車」

「バラシファイト」

典型的など素人映画で、とても入場料を取れるレベルではない出来栄えですが、アイデアはとってもいいので、もっとちゃんと作ればよかった。本気の演劇陣を集めて、しっかりと隅々まで演出にこだわればなかなかのエンタメになったろうに、演劇関係者へのリスペクトだけと言う立ち位置の割に本気度が見えない映画でした。監督は関沼豊。

 

いかにもヘボ役者という感じの座長の臭い演技から映画は幕を開け、キャストたちが打ち上げに行った後、残ったスタッフたちがこの日の打ち上げ参加の枠を奪い合うバトルを始める。そもそも伝説の舞台監督奈須が始めたこのバトルだが、今ではなんの目的があったのかさえ誰も知らなかった。

 

奈須の弟子で今回の舞台監督かつ演出部チーフの巴川は、いつもバラシファイトに参加しないのだが、制作プロデューサーらの私利私欲の金の動きを知ったため、バラシファイトに加わることになる。実は奈須がバラシファイトを始めたのは、最後にキャストにお疲れ様の言葉をかけたかったためだった。制作プロデューサーとのバトルの末巴川は勝ち、スタッフ全員で打ち上げの居酒屋に行くが、そこで、座長から、自分もバトルをしたいと挑んできて映画は終わる。

 

キレのない映像展開とだらだらのアクションシーン、なんの工夫もない脚本と演出で、なんの取り柄もない映画ですが、作ろうという微かな意気込みが見えなくもないので良しとしましょう。

 

「雌が雄を喰い殺す かまきり」

サスペンスというよりコメディという感じの面白さで、見ていて楽しくて仕方がない。しかも、役者さんの個性が映画を面白くしている時代なので、それだけでも大喝采です。監督は井上梅次

 

巨大企業を一代で作り上げた大田黒軍平のパーティの場面から映画は幕を開ける。財界人や政治家なども駆けつける盛大なパーティだが、軍平にとってはその後の女周りが楽しみだった。この日も秘書の山岡に伴われて三人の妾を周り、さらに物足りなくてもう一人物色する始末。そんな夫を冷静に支えるのが妻の京子だった。

 

ある日、軍平が急な腹痛で病院へ担ぎ込まれる。担当した医師中条は、実は京子の元彼だった。ガンではないかと疑念を持つ軍平の心理を利用することを考えた京子は、ガン患者のレントゲン写真と軍平のレントゲン写真を入れ替えて山岡に盗ませる。すっかり落ち込んだ軍平は妾とも縁を切り、仕事も手につかなくなる。京子はがんセンターでもう一度見てもらうように提案して、そこで、なんともないと言われた軍平は一気に元氣になるが、京子は中条と図って、再度軍平にガンだと信じ込ませる。

 

すっかり落胆した軍平は最後の望みと処女を抱きたいと考える。先日秘書としてやってきたしのぶという女性に手を出すが、泣かれてしまい、軍平は、余命わずかであることを告白する。しのぶはすっかり軍平に心を許して、体を与えてしまい、さらに本気で愛してしまう。そんな状況を心配するのは京子だけではなく、義理の娘のみどりも心配していた。そんな頃、みどりの実父だという男が現れる。それは京子の差金で、みどりの相続権を剥奪する為だった。

 

みどりはその実父を車で轢き逃げして殺してしまう。軍平がしのぶに傾倒していくのに危惧した京子とみどりは結託することにし、軍平を殺す段取りをしようとする。その頃、しのぶとベッドを共にしていた軍平はしのぶに勧められ薬を飲んで眠ってしまう。翌朝、山岡が中条と尋ねると、なんと睡眠薬を飲んでガス自殺している軍平を発見する。しのぶは助かる。これはしのぶの策略だった。

 

この日、弁護士による遺言状が開示されていた。そこには、わずかな金を京子が相続するだけだった。しかし京子は遺留分を手に入れるために異議申し立てを申し出るが、そこに、しのぶがやって来る。しのぶは京子とみどりの前で、二人が計画してきたことを明らかにすると共に、家に仕掛けていた盗聴器のテープを持ち出す。万事休すとなった京子たちは諦め、しのぶは悠々と家を後にし、遊び仲間と車で走り去る。残った京子とみどりは、次のターゲットを探そうと言い合って映画は終わる。

 

二転三転は最初から予想がつくのですが、そんな決まりきった話に右往左往する登場人物を見ているのが実に楽しい作品。役者たちの個性と存在感が映画を極上のエンタメにしてくれます。面白い映画だった。

 

「喜劇 各駅停車」

全くたわいのない話ですが、今となっては、撮影する事ができない汽車のシーンの連続と、ゆるゆるの人間ドラマが心地よい映画。監督は井上和男

 

国鉄に定年がなかった時代、長らく機関士を勤めた寺山に、助役はそろそろ退職しないかと勧告している。いつも立ち寄る飲み屋の女将きみさんとは懇意で、かつて戦争末期の空襲の際に国鉄機関士だったきみの夫は機銃掃射で死亡していた。以来、寺山が親代わりに世話をしていた。寺山と犬猿の仲の機関士助手の丸山は、いつも喧嘩ばかりしていたが、寺山の助手になることに決まる。助役から、寺山を説得して退職勧告してもらうのが本当の仕事だった。

 

最初は忌み嫌っていた丸山だが、寺山の人柄に次第に惹かれ始める。丸山には憧れている看護婦がいたが言い出せずにいた。きみはいつのまにか寺山に好意を持っていたが、寺山は一線を越えることは自分が許さなかった。台風の夜、きみの夫の命日に寺山はきみと過ごしていたが列車が脱線する事故が起こり、たまたま寺山が交代を申し出ていた若い機関士が死んでしまう。

 

そんな寺山だったが、最近、目の衰えを感じ始め、眼科で診てもらう。そして丸山との最後の仕事に向かう。辞職を助役に申し出た日、丸山は恋焦がれていた看護師に呼ばれて会いに行くが、それは断りの話をすることだった。彼女は結婚が決まっていた。ふられた丸山はやけ飲みし、そんな丸山を見つけた寺山が慰めてやる。後日、元々両親も死別していた孤独な丸山を、子供のできなかった寺山が引き取ってやり、寺山の好きなヤマメ釣りに連れ出して、ほのぼのして映画は終わる。

 

なんのことはない、たわいない人情ドラマですが、こういうたわいないほのぼのした世界を映画館で見れるから、観客は明日への勇気をもらったのだろうと思います。古き良き昭和の一ページを体験した気分でした。