「団地 七つの大罪」
たわいない映画ですが、軽快なテンポで流れていくオムニバスストーリーがとっても小気味良い。もちろん時代色はあるのは否めないが、芸達者が生み出す軽妙なリズム感を楽しめるだけでも十分見る価値のある娯楽映画でした。監督は千葉泰樹、筧正典。
団地住まいが一種のステイタスになり始めた日本で、厳正な抽選で当選したさまざまな夫婦のやや艶話風のエピソードの数々は、当時ならあり得る様々がにんまりさせるユーモアで流れていきます。
まず、ようやくここに引っ越して来た夫婦、部屋番号さえまだうろ覚えで間違ってしまう。のぞきが趣味の旦那が覗き見しているのは初老の男と若い女のいかにもな生活、さらに自分の妻が若いダンスコーチといちゃついている現場を目撃したり、子作りに励んで広い部屋に移りたいがなかなか夫の体力が頼りない夫婦、お隣同士で浮気しているのではないかと疑う二組の夫婦は、たまたまエレベーターが故障して閉じ込められる。
まもなくして、全自動クリーニング機が設置されて女性は主人に洗濯を任せてのんびりする一方で、夫達は毎週洗濯物運びに駆り出され、クリーニング室で愚痴を言い合いながらも微笑ましいひととき。やがてこの団地も十周年を迎えてパレードが催されて映画は終わっていく。
なんのこともない映画ですが、癒されるほどに心が安らぐのはなぜでしょうか。これもまた映画の楽しさかもしれない、そんな作品でした。
「太陽を抱け」
いやあ楽しい。職人監督が作り出す最上のエンターテイメント、そこには 妙なメッセージや芸術性などはないけれど、時代を切り取ったみずみずしさが溢れています。確かに今見れば物語もキャラクターも古臭いかもしれないけれど、キレのいい演出とテンポのいい展開で、本当に心地よく見終わることができる。音楽映画としては普通の出来栄えながら、終始生き生きした娯楽を楽しむことができました。監督は井上梅次。
ある劇団の最終公演のステージから映画は幕を開ける。ここのバンドマン二人森山と塚本はとあるバーで一人の歌の上手い女性と知り合い、バーのマダムの紹介でオリオンレコードという中堅プロダクションの文芸課長中原を紹介される。酔った勢いでオーディションを約束された二人は時間に遅れそうになってたまたま止めた車でオーディションへ。なんとその車はオリオンレコードの社長の車だった。
オーディション会場で千葉という男と知り合って意気投合し、オリオンレコードでジャズ部門創設して新たなジャンルへ飛び出そうとするが、なかなかうまくいかない。そんな頃、専務が大手電気会社にオリオンレコードを吸収合併させる計画を考え、それが中原に漏れることになる。何事も事勿れできた中原だが酒に酔うと本音を言う癖があった。突然中原が左遷させられるということで。その送別会で千葉らは中原に酒を飲ませ、真実を暴露させる。
中原は名古屋へ向かう新幹線の中、オリオンレコードでは社長が個別に大手電気会社社長と対等合併の話を決め、中原も呼び戻し、千葉らの辞職願も破棄してみんなで頑張ろうとなって映画は終わる。途中、森山、千葉の恋物語や中原の再婚話などを絡めて面白おかしく展開していく様が楽しい。
たわいのない映画ですが、映画全盛期の勢いが至る所に見え隠れし、裏表のないストーリーにひとときの癒しを与えられます。こういう映画はいいですね。