「チャチャ」
ふわふわのラブファンタジーかと思ったらとってもポップでメランコリックなサイコパスファンタジーだった。めちゃくちゃに楽しいし、どこかホラーチックだけれども、悲壮感も暗さもなくて全てが夢の世界のようにファンタジックなのだ。音楽もキュートだし、テンポがいいし、それでいた不思議な雰囲気が全編に溢れていて、世界なんてこんなにも不思議で楽しいもんなんだって気持ちよく劇場を出てきました。監督は酒井麻衣
小さなデザイン事務所に、社長が連れてきたというイラストレーターチャチャがやって来る。彼女のことを噂する同僚達の呟きから映画は幕を開ける。気が向いたら屋上でタバコを吸っているチャチャは、同じく屋上にいる青年樂と出会う。樂はチャチャの会社の下の階のレストランの店員で、いつも失敗ばかりしている。そんな彼は店長に呼ばれて降りていったが店の鍵を落としていた。チャチャはそれを拾って届けてやる。
チャチャの同僚の凛は社長のことが好きだったが、社長がチャチャを気に入っているらしいと関係を勘ぐり後をつける。一方チャチャは、樂に、自分が鍵を届けたからお礼をしてくれと言い出す。樂が食事でもと考えるが、チャチャは樂が飲んでいたグリーンサイダーが欲しいと言い出す。その夜、チャチャは路上でたんぽぽの花を拾い、自分の本に押し花にする。樂はグリーンサイダーをチャチャの事務所に届け、凛がそれを受け取ってチャチャに渡す。
その後、チャチャは樂が予定していた食事の場所に連れていって欲しいと言い出し、二人は夜のレストランへ向かうがどこも満席で、仕方なく樂の部屋にやって来る。樂はチャチャに、モンサンミッシェルオムレツを作って振る舞う。そして二人はその夜から一緒に暮らすようになる。いつもそそくさと帰るチャチャが怪しいと凛が後をつけると一軒の家に辿り着く。そこで樂と鉢合わせして帰って来る。後日、再度その家に行った凛は樂が両手を縛った男にシャワーをかけて洗っている現場を見てしまう。そんな頃、凛はチャチャに恋愛相談される。
チャチャは好きな男性がいるが片想いだと告白、凛もまた同じことを告白する。そしてチャチャの相手が樂だと思った凛は、トランスジェンダーコミック「クロとシロ」を貸してやる。チャチャは、その漫画を樂の部屋のベッドで一人読んでいたが物音がするので気掛かりになる。
場面が変わると、デザイン事務所の上の階に留学生向けの語学スクールがあり、そこにピオニーという外人の女性教師がいた。ピオニーは樂のレストランのビルの向かいに住んでいて、レストランのビルの屋上から見えていた。ピオニーは護という彼氏と同居していたが、ある日、護が飲みに行くと出ていったまま帰ってこなかった。実は樂はピオニーが好きだった。
樂はピオニーの家を張っていて、護が出てきたので後をつける。護は居酒屋で一人酒を飲み、その店にあったたんぽぽを一輪貰って帰る。ピオニーがたんぽぽが好きなのを知っていたからだ。後をつけた樂は護を拉致して自宅の奥の部屋に縛って監禁する。そして、わずかな栄養ドリンクを与え、ある日、洗ってやると外に連れ出しシャワーをかけたりする。
場面が変わり、ベッドで漫画を読んでいたチャチャは、物音のする部屋に行くと手足を縛られた男がいて、傍に水晶体を瓶に入れたものがたくさん置かれていた。チャチャは縛られている男護と親しくなり、ことの次第などを聞くがよくわからなかった。
チャチャはそれとなく水晶体のことを樂に聞いたところ、樂はチャチャが奥の部屋に行ったことを突き止める。チャチャは護にオムレツを届けたりする。やがて語学学校の交流パーティーの案内を持ってピオニーがデザイン事務所にやって来る。そのチラシに写っているピオニーと護の写真を見て、チャチャは拉致されている男の正体を知り、助けようと部屋に行くが、すんでのところで樂に拉致されて二人は軽トラに乗せられて山奥へ連れて行かれる。
チャチャと護は命の危険を感じ、樂が肉切り包丁で護を殺そうとするのを、私がするとチャチャが言い出し、樂の隙を見てラクの後頭部を斬る。そして護を逃し、チャチャは樂の血を舐めてみるが美味しくなかった。幼い頃、自分の指の血を舐めて美味しかったので、しばらく舐めたりしていたが母に見つかって辞めていたのだ。
樂とチャチャは軽トラで帰路に着く。護はピオニーの家に戻って来るが、ポケットにチャチャが作ったたんぽぽの押し花のアクセサリーが入っていてそれをピオニーがたんぽぽの花のそばにおくと花が「おかえり」と答える。
チャチャは突然お休みをもらうとデザイン事務所を出て行く。この街の古い電信柱やレトロなポストがおしゃべりをし、デザイン事務所では同僚の青木が凛のことが好きだと心で呟くが、凛は別の同僚が好きなのかと見つめていたりして映画は幕を閉じて行く。
とにかく楽しくて、ほのぼのした小ネタや小道具満載な絵作りも面白くて、しかも映画のテンポがとっても軽やかで、選曲、登場人物のキャラクターなどなどがとにかくポップで素敵な作品だった。
「シン・デレラ」
期待はしていなかったものの、ここまでキレのない、しかもオリジナリティも工夫もない残虐ホラーも珍しいという一本でした。シンデレラの物語をもじっているというより完全に無視した暴走感はいかにもアイデア不足だった。監督はルイーザ・ウォーレン。
森の奥、一人の女がジェイコブという男に拉致されているのかよくわからない映像、そこに一冊の悪魔の本が投げ込まれ、それを開くと男は幻覚を見始め、次々と殺されて行く。これが何か説明されないまま場面が変わると、義母ダイアー夫人と義理の姉達から虐待されいるシンデレラの姿から映画は幕を開ける。この家の女中アーニャが足に怪我をして、ダイアー夫人らに拷問され、トドメをシンデレラにさせる。
そんな時、城から王様夫妻と王子レヴィンがやって来る。そして、舞踏会に招待されるが、レヴィン王子がたまたまシンデレラを見つけて、適当な誘惑の言葉と共に一緒に舞踏会に招待して帰る。しかし、舞踏会の日、シンデレラは留守番を言い渡される。そこへ不気味な出立ちのフェアリーゴッドマザーが現れ、シンデレラにドレスを着せて舞踏会に送り出す。シンデレラが来たことを見つけた義理の姉達とダイアー夫人、さらにレヴィン王子もシンデレラを取り囲み、ドレスを剥いで裸にして笑う。シンデレラはフェアリーゴッドマザーに最後の願いとして復讐を依頼する。
ダンス会場のドアが閉じられ、シンデレラはその場の客達を惨殺し始める。ダイアー夫人、義理の姉達、レヴィン王子は逃げるが、後を追ったシンデレラによって次々と殺されて行く。最後にフェアリーゴッドマザーは、願いを叶えたからシンデレラは自分たちの仲間になるようにいうが、シンデレラは拒否してフェアリーゴッドマザーを殺し、魔物の主人となって森に消えて映画は終わる。
ぐだぐだダラダラの作品で、緩急もなく、惨殺シーンを繰り返すものの、全然怖くない。惨殺シーンも緩急がないために、退屈なだけという仕上がりで、この程度かと思っていた通りの仕上がりの一本でした。
「ゼンブ・オブ・トーキョー」
監督が熊切和嘉ということだけで見にいったけれど、まあまあに面白かった。日向坂46のメンバーのいわゆるアイドル映画なので演技のクオリティが期待できない分、細かいカットとさりげないストーリー展開で爽やかに見せて行く手腕はさすがという感じの出来栄えで、一級品とは言えないまでも、こういう青春群像劇もありだろうという映画だった。
高校の修学旅行を控えた池園達の姿から映画は幕を開ける。東京を全て回るという意気込みの池園は、完璧なマップを作って本番に臨む。東京へついたものの、昼食時に目当ての店に入れず、結局それぞれ好きなところで食べて合流することになるが、池園が集合場所に行くも誰も来ない。一瞬パラレルワールドに別れたかと思ったが、実はそれぞれは東京でやりたいあることがあった。こうして女子高生トークが飛び交う中でスマホを駆使しながらのそれぞれのドラマが展開する。
この機に好きな男子に告白しようとする女子、アイドルグッズを手に入れるために仲間と目的地を目指す女子、実はアイドルオーディションを受けるために時間を割く予定の女子、などなどが軽快なテンポでカットを繰り返しながら展開して行く。そしてそれぞれバラバラに行動していたのが一つにまとまり、修学旅行という高校生活の青春の一瞬を終えて、やがて卒業式を大団円に映画は終わる。
なんのことはない作品ですが、爽やかすぎる青春群像がとにかく楽しい。見なくても後悔しないレベルではあるが見て損は感じない一本だった。