くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「薄氷の殺人」「柔らかい肌」

kurawan2015-01-12

「薄氷の殺人」
ベルリン映画祭でグランプリの作品賞と主演男優賞を受賞した中国映画の話題作を見る。監督はディアオ・イーナンという人である。

長編三作目ということだが、驚くほどの傑作だった。編集のタイミング、カットの間、さらに赤や黄色を映像演出に多用した色彩描写の美しさに、一気に画面に引き込まれるのである。特に、最後まで写さずに余韻を残して一コマ手前でカットして場面転換する演出が絶妙で、フィルム映画の時代の編集を彷彿とさせる。

静かにタイトルが終わると、石炭の山の中に埋もれた死体らしきものの画面になる。精錬所のベルトコンベアで発見されたのはバラバラ死体、物語は1999年、猟奇殺人事件に映画は始まる。

カットが変わると、扇風機、部屋の中、男と女がベッドの上でトランプをしている。やがて、シーツにくるまれてSEXしているらしい映像、駅のホームで、男はその女にすがりつくがいなされ女は列車に乗る。離婚証明書を見つめる男、彼が主人公の刑事ジャンである。

さらに画面が変わると、刑事たちが容疑者と思われたチンピラらしい二人を追いつめる画面へ。そこで、チンピラたちの発砲で刑事二人が死に、そこにいたジャンが反撃してチンピラを殺すが、瀕死の一人がジャンの後ろから撃って暗転。このカット、ジャンのアップだけで暗転して銃声という演出が見事である。

車がトンネルの中を走っている。ジャンは撃たれたもののけがだけですみ、相棒の刑事と乗っている。出口は雪景色で、ゆっくりとトンネルを抜ける。傍らに一人の男が飲んだくれている。いったん通り過ぎてUターンする車。時は2004年へ。

飲んだくれていたのはジャン。Uターンして近づいてきたのは車ではなくバイクに乗る男。彼はジャンに近づき、酔いつぶれていると判断してジャンのバイクを乗って逃げる。このジャンプカットの見事さにも驚かされるのです。

ジャンは重傷を負って、刑事の第一線から警備員のような仕事に就いている。ところが、ここに新たに五年前のような猟奇殺人が起こり、ジャンの相棒のリーが捜査を始める。実は、殺された男二人にはウーという女と関係があったことが明らかになる。ウーはロンロンというクリーニング店につとめていた。

五年前の事件が気にかかるジャンはリーから情報をもらい、独自に調査を始める。

ウーは1999年、客の皮ジャンを破損し、クレームを付けられたがその男は、突然こなくなり、皮ジャンは預けられたままだという。

ウーに近づくじジャンが、夜の郊外スケート場に誘う場面がとにかく見事。ハロゲンライトをデジタルカメラで撮ると、こういうオレンジ色の画面ができるが、それを効果的に利用し、ほかのシーンでも赤や黄色のネオンやライトアップによる美しい映像づくりをしている。

そして、ジャンはウーから、5年前、自分の夫リアンが強盗を働き、人殺しをしてしまったが、その殺された男と名前を入れ替わり罪を逃れ、自分は死人としてウーを見守るようになったのだという。そして、ウーに近づいた男を殺したのだという。

しかし、ジャンの相棒のリーはスケート場で、犯人とおぼしきリアンを見つけ、尋問しようとするが逆にスケート靴で殺される。
リアンは死体をバラバラにし、橋の上から貨物列車に順番に投げ捨てたため、列車の石炭が地方に散らばり、結果として、死体があちこちから同時に発見されたのである。

ジャンはウーを問いつめ、リアンに自首すべく進めるが、警察はリアンを追いつめ、射殺する。

次第にウーに牽かれていくジャンは、どこか引っかかるところがあり、5年前、クリーニング店で働いていたウーがミスをした皮ジャンを買い取り、そこに入っていた名詞から、皮ジャンの持ち主を突き止める。なんとその持ち主はウーの愛人で、ナイトクラブを経営し、妻を捨ててでていったのだという。

そして、そのまま行方不明になったことを突知り、それが5年前の被害者であることを突き止めるのだ。

ウーに本当の真相をはなせと観覧車の中で迫るジャンの場面、観覧車からかつてウーの愛人であった男が経営していたナイトクラブのネオンを見せる下りの、なんとも美しい映像が絶品。

やがて、ウーが殺人の犯人として逮捕され、その実況検分で、5年前の死体切断のアパートへ行く。外にでると、突然屋上から花火が降ってきて、警察とウーに降り注ぐ。消防隊がゆっくりと、屋上にいるのんだくれを捕まえるべくクレーン車であがっていくところで暗転、エンディング。

実は屋上にいるのはジャンで、彼はウーへの愛を訴えるべく花火を上げたのではないかと想像させる余韻を残す。

ゆっくりと空を見上げるカメラに写る花火の映像、昼日中のこの映像が実に見事なものである。

ネオンやライトアップを使った赤や黄色、ブルーの色を画面に入れる演出も見事ながら、カットと転換の秀逸さ、カメラアングル、カメラワークの独特の雰囲気が、とにかく、驚愕するほどにオリジナリティにあふれている。ものすごい傑作に出会ったという感じでした。


「柔らかい肌」
フランソワ・トリュフォー監督の心理ドラマ、要するに不倫を描いたサスペンス映画であるが、これもまたとってもおもしろかった。

やはり、トリュフォーヒッチコックタッチを好むので、ドキドキハラハラシーンが実にうまい。それに、ヒッチコック的なカメラワークとリズムを取り入れるからたまらないのです。

映画は握ったり握り返したりする手のアップでタイトル、物語は知識人のピエールが、リスボンでの演説をしに旅立つシーンに始まる。時間が迫っていて、空港まで車で送ってもらうが、そのシーンがいかにもサスペンス映画のようで、続いて、飛行機に乗り、リスボンに着く間で、これから起こる出来事を予感させる音楽と映像になっている。

リスボンでニコルという女性と出会い、やがて二人は恋に落ちる。当然、ピエールにとっては不倫である。

パリから離れた田舎の映画館、上映前の演説に友人に呼ばれ、ニコルとのアバンチュールをかねて出かける。しかし、二人きりで楽しむはずが、しつこい友人の接待に絡まれ、いらつくあたり、ここもまたヒッチコックのようなサスペンスフルな展開となる。

そして、いらだちを持ち始めるニコル、さらに夫に不審を抱き、離婚を迫る妻、パリに戻ったピエールは妻と離れるが、ニコルとピエールの写真をたまたま見つけた妻は、猟銃を持ち出し、ピエールをレストランで撃ち殺してエンディング。

ピエールが旅立つ前に、子供に会いたいから段取りしてくれと友人に電話し、すぐに妻に電話すればよりは戻せるといわれ、すぐ電話しようとするが、たまたま電話ボックスがふさがる。

一方、妻は猟銃を持ち出し、ピエールのもとに行こうとしていて、やっと電話できたときには妻は出向いた後で、このすれ違い的なサスペンスからラストシーンは、また秀逸である。

フランソワ・トリュフォーの作品は、ラブストーリーが特に際だってすばらしい気がします。そこにヒッチコックタッチの演出が施され、音楽の使い方も近い感じで、それでもやはりトリュフォーのオリジナリティも見せてくれるおもしろさが、癖になりますね。

この作品も本当におもしろかったです。