くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パパはわるものチャンピオン」「運命は踊る」

パパはわるものチャンピオン

全く飾りっ気のない素直な映画というのは見終わっても清々しくていいです。単純な物語ですが、単純だからこそ心にまっすぐに感動が伝わってくる。いつの間にか胸が熱くなっているのだから不思議。映像作品としては普通ですが、テレビではなく映画になってるのがいいですね。監督は藤村亮平。

 

大村家の一人息子翔太の今日は参観日。例によって父親は仕事で遅れそうらしい。駆けつけてきた父大村孝志は、かつては無敗を誇るヒーロープロレスラーだったが、怪我をしてリタイア、今は悪役レスラーとして活躍していたが、息子には黙っている。

 

学校で父親の職業を友達に詰められた翔太はこっそり父の車に潜り込み、父の仕事場へ。そして父が嫌われ者のゴキブリマスクであることを知る。そしてそこで、ヒーローレスラードラゴンジョージのファンのクラスメートの少女に会う。当然、翔太は父がゴキブリマスクであることを言えず、とうとうドラゴンジョージの子供だと嘘を言ってしまう。

 

翔太は父にプロレスをやめてくれとまで言い、たまたま、プロレスのトーナメントに出場することになったゴキブリマスクは順当に勝ち進みながらも、準決勝でマスクを脱ぐ。その素顔が大村孝志だと知りファンは大喜びするが、その試合は負け、しかもマスクを脱いだことで、プロレスをやめることになる。

 

ところが優勝したドラゴンジョージはかつて憧れた大村孝志との試合を望んだことから、大村孝志は息子のために再度挑戦を決意、翔太も父が悪役であることを誇りに思うようになる。

 

そして試合の日、大村孝志は素顔ではなくゴキブリマスクとして登場、ドラゴンジョージと熱戦を繰り広げるが最後の最後で負けてしまう。しかし、翔太を始め旧友たちもそんな翔太の父はかっこいいと賞賛。翔太も将来の夢はパパのような悪役になると日記に書く。昼寝をしているパパの枕元には翔太が作ったチャンピオンベルトがあった。

 

本当に素直な作品なので、なんの嫌味も、余計なメッセージもないのでまっすぐに見れます。こういう作品がもっと量産されて、みんな見たらいいと思います。

 

運命は踊る

これはかなりクオリティの高い作品でした。画面の絵作りといい、カメラワークといいストーリー構成の配分といい一級品の秀作でした、監督はサミュエル・マオス。

 

地平線まで続く一本道のカットから変わると、一人称カメラの映像。ドアを開けたのは女性、どうやら軍人がたづねてきたようで、詳細を聞く前に女性は気を失う。慌てて軍人が抱え上げ、気付の注射らしいものを打つ。カメラが部屋の中に進むと男がいる。どうやら息子の戦死を知らせにきたようである。

 

男はミハエル、倒れたのは妻のダフナ。倒れた背後の壁にはモダンアートのような額がかけられている。戦死したのは息子のヨナタンである。知らせを持ってきた軍人は、1時間ごとに水を飲むようにミハエルに言い、間も無くやってくる担当者に葬儀の段取りを聞くように言ってさる。ゆっくりとカメラが天井まで上がるとミハエルの部屋の床には幾何学模様が描かれている。ミハエルは平静を保とうとするが、熱湯を手にかけて気を紛らそうとしてりする。

 

ところが数時間して再びやってきた軍人は、人違いでヨナタンは死んでいず、国境の警備に当たっていると告げる。怒ったミハエルは息子を今すぐ喚び戻せと迫る。

対処に困る軍人を尻目に、軍の司令官に知り合いのいる知人に連絡するミハエル。

 

カットが変わると、とある国境。若い軍人四人が任務についている。のどかな風景で、時折ラクダが通るのを見ている程度。この中にヨナタンもいた。食事は近くに置いてあるコンテナで食べるが、どうやら沼地らしく沈みかけている。ヨナタンはダンスをしてみたり、漫画を描いていたりして過ごしている。

 

一台の車がやってきて中年の男女が乗っていたが、問題なく通す。次にきた若者四人も問題ないかに思われたが、たまたまドアを開けたときに空き缶のようなものが転がり、手榴弾だという兵士の絶叫に思わず機関銃を乱射、車の中の若者は全員死んでしまう。

 

本部に報告したら、上官がやってきて、ブルドーザーで車を運び穴に埋めてしまう。そこへ連絡が入り、なぜかヨナタンは自宅に帰すことに。トラックにヨナタンは乗って走り去る。

 

カットが変わるとミハエルがヨナタンの部屋を見ている。そこへダフナがやってきて、もうここにはこないほうがいいとミハエルに言っている。ケーキを作ろうとしているが、必要以上に手をこすって血が滲む。

 

二人で会話をするが、どうやらヨナタンは死んだようである。もしミハエルが呼び戻さなければというセリフが入るが妙な後悔のセリフはない。それより、ダフナは産まなければ良かった、最初の戦死の連絡の時はあれでいいと思ったと語る。何か背後の物語があるようですが多くは語らない。

 

一方、ミハエルは、かつて軍にいた時、なぜか自分の前に車を譲ったが、その直後車は地雷を踏んだのだという。その直前、ダフナの妊娠を知ったという内容のセリフを語る。

 

もしも、譲らなかったら、もしも呼び戻さなかったら、そんなことは台詞の中に出ない。ミハエルは、ヨナタンもしていたダンスのステップをする。ヨナタンが書いた、ブルドーザーで車を運んでいる漫画が壁に貼ってある。そして二人でマリファナを吸う。そこへ妹のアルマがやってくる。今から友達と会うらしい。ダフナの作ったケーキを食べて出て行く。

 

カットが変わると冒頭の一本道、トラックが走っている。乗っているにはヨナタン。カーブを過ぎたところで突然目の前にラクダがいてハンドルを切り損なった車は道の下へ落ちて横転してしまう。そして映画が終わる。

 

余分な描写や台詞を極力カットし、映像のみで語る演出が素晴らしい一本で、クオリティの高さを感じる作品でした。