くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ホテル・ルワンダ」

ホテル・ルワンダ

2005年アカデミー賞レースの中で「ミリオンダラー・ベイビー」「アビエイター」などの話題作大作が注目される中、主要部門にノミネートされていた作品があった。アフリカの小国ルワンダでの内戦をテーマにした「ホテル・ルワンダ」である。

当初、アメリカ本国でも数館しか公開されていなかったこの作品は、瞬く間に話題となって、2300館での拡大公開となった。
日本ではこの作品の公開は全くめどが立っていなかったのであるが、若者たちがインターネットで署名を集め、その熱意がわずか三ヶ月で4000通もの署名を集める結果となり、緊急公開となったのだ。その努力を今や中年の域に入りつつある私も是非見なければと、遠路出かけていったのである。

映画館はミニシアターとはいえ、30分前にはすでに席は総て埋まり、その後もゾクゾクと観客が集まって、左右の通路、後ろの通路まで立ち見という久しく経験しなかった状況での鑑賞であった。

冒頭から圧倒的な迫力で迫ってくるアフリカの小国の現状。そして一夜にして内戦の恐怖の渦の中に放り込まれる主人公。その恐怖の中でもてる限りの知識と処世術で家族を必死で守ろうとするポール・ルセサバキナ(ドン・チードル)。もちろん実在の人物であり、物語も実話に基づいたものである。

しかし、家族を守るだけのつもりが、次々と惨殺されていく知人、あるいは人々の姿を見るにつけ、いつの間にか自分のホテルにそうした人々をかくまいながら、必死で守っている自分に気がつきはじめる。とにかく、映像美がどうの、構図やカットがどうの、脚本がどうのなんていうつまらない理屈はすっ飛んでしまうほどに圧倒的な迫力でスクリーンから伝わって来る主張、訴えかけ「人間がこんなことをしていて良いのか?先進国の人々が目をつむっていて良いのか?テレビに映る内紛や、飢餓、疫病に苦しむ人々の姿を人ごととしてみていて良いのか?」そんな声がこちらでじっと見ている私たちに迫ってくるのです。

もちろん、映画作品として、最後までスクリーンに引き込まれているのはその中に存在するストーリーのリズムのなせる技かもしれません、それを演出手腕だなんていったらそうかもしれません。しかし、そんなことはどうでも良い。本当に、こうして平和に暮らす私たちは、目を背けている世界があるのではないか。わかっているのに知らぬ振りをしているのではないか。スクリーンの中で現実に難民を1000人以上も助けたポール・ルセサバギナ(ドン・ちードル)の視線が私たちを常に捕らえているような錯覚に陥ってしまいます。

ぐいぐいと画面に釘付けにされながら、刻々と過ぎていく恐怖を見つめ、アフリカのほんの小国での人種間の争いに端を発した大虐殺事件が私たちに何かを訴えかけてくるのです。そんな訴えかけの固まりのような見事な作品が、本日見た「ホテル・ルワンダ」でした。

いい映画?涙する感動?もちろんそんなものはありますよ。でもそれ以上にもっと考えるべきものが心に芽生えてくる奥の深い傑作、それが「ホテル・ルワンダ」でした。