くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「TOMORROW 明日」「美しい夏キリシマ」

kurawan2015-08-19

「TOMORROW 明日」
これは素晴らしい傑作。スクリーンを見ているだけで、戦争は絶亭にいけないと痛切に感じてしまう。もちろん、そう考えるのは、この作品の物語が見えているからであるのですが。監督は黒木和雄である。

舞台は1945年8月8日長崎。翌日にはこの地に原爆が落とされる。その前日の町の人々の日常を淡々と描いていく。

物悲しいほどに静かな音楽が繰り返され、時に、色彩を抑えた景色から、目の覚めるような青空のカットが繰り返される。

少年たちがカブト虫を取ろうとしているオープニングから、結婚式の場面、若い人の恋、新妻の出産、市電の運転手の日常、入院している娘を心配するあまり狂ったようになる母の姿。

それぞれがありきたりの町の風景、人々のありのままなのだ。

そして、運命の日。全てが一瞬の閃光で消えてしまうラストシーン。わかっていながらも、このラストの一瞬に息を飲んでしまう。これが名作である。

いや、これこそが、見ておくべき戦争の悲劇なのかもしれない。見事な映画でした。


美しい夏キリシマ
1945年8月の宮崎の村を舞台に描かれる群像劇。
一見、普通の人間ドラマのごとく展開するが、どこかしこに絡んでくる戦時のエピソードや、戦時であるがゆえに起こる切ないほどの男と女のドラマ、さらには青春の切ない恋が語られていく。

一匹の蝶が舞うシーンから始まり、物語のあちこちに蝶のショットが挿入される。

広々とした緑の田園、彼方の霧島の姿、駐留している日本軍の景色や、地元の軍事訓練、さらに、戦況を伝えるラジオのアナウンスなど、のどかな景色と、戦争の緊張が漂う映像は、直接の戦場を描くよりも、肌寒いようなもの悲しさを伝えてきます。

主人公の少年は、病のため、徴用されず、さらに、空襲の時に友人を救えなかったトラウマも抱えていて、どうしようもないやるせなさをその振る舞いに見せる。

厳格な祖父、彼に恋する少女、戦争への疑問。そんな中、身近な人が特攻へ出るというエピソードや、本土に攻めてくるというアメリカを皆真面目に信じている。死んだはずの夫が生きていたことなどの悲劇もさりげなく挿入される。

決して、戦争の悲劇は戦場だけのものではない。この銃後の物語は、静かながらも力強く、戦争の愚かさを訴えてきている。

素晴らしい一本である。